第4話 冒険者ギルド

 アキミとモナミは部屋の外で待っていた。

「着替えが終わったから、冒険者ギルドへ連れて行ってくれないかな」

「行きましょう。その後に生活雑貨も必要ですわね」

「カオルーー、お菓子買って、お菓子ーー」


 3人で冒険者ギルドへ向かう。

 ちょっと気になったので2人に聞いてみる。

「おじいさん、おばあさんは元気そうだけど、お父さんやお母さんはどうしたんだい」

 アキミの表情が1瞬固まったが、すぐに笑顔に戻った。


 まずい。地雷を踏んだようだ。

 アキミは僕の顔を見ないで、明後日の方向を見ながら言った。

「父と母は私たちが小さい頃、遠くへ行商に行ったまま戻ってきません」

「待ってればいつか戻って来るんだぜ」


「辛いことを話させてしまって申し訳ない」

 僕はアキミとモナミに頭を下げた。

 アキミは僕に顔を向けて明るい声で言った。

「その分おじいさまと、おばあさまから大切に育てられました」

「でもじじいは、とても怖えーんだぜ」


 そんな話をしている間に、冒険者ギルドへ着いたようだ。

 アキミとモナミは迷わず中へ入って行った。

 中にいた冒険者達は、2人を見て1瞬緊張が走ったが、すぐに収まり、こちらを気にしている様子はなかった。


 少女2人が来るよう場所ではないと思うのだが、珍しくはないのだろうか。

 受付にいた女性が緊張した面持ちで2人に話しかけた。

「マーブル商会のお嬢さんお2人がどのような御用でしょうか?」


 なるほど。そんな感じなのか。

 この町の力関係を見たような気がした。

 マーブル商会は、ただのお金持ちというわけではないということだろう。小さい商いといっていたが、あれは謙遜だったというわけだ。


「カオルさんに冒険者カードを発券して下さいな」

 そう言うと、アキミは僕を手招きした。

「カオルは冒険者になるんだぜ」


「わかりました。ステータスを確認したいので、こちらの水晶に手をかざしてください」

 テーブルにあった水晶玉を指さした。

「これでいいのかい」

 あのステータスがばれてしまうのか。大騒ぎにならないかな? そう思いつつ、僕は水晶玉に手をかざしてみた。


「ええっ! 魔力無限大って何ですか!」

 ああ、やっぱり大騒ぎになってしまうのか。

 周りがざわつきだした。

「おい、魔力無限大ってなんだよ」


 アキミは声を張った。

「カオルさんは伝説の『魔法使い』なのです。3十年前に姿を消した『魔法使い』が、再び復活したのです。しかしカオルさんはマーブル商会の庇護下にあります。そのことをお忘れなきように」

 ざわつきは1瞬でおさまってしまった。


 驚いていた受付嬢も素に戻った。

「コホン。ステータスは異常値でしたが、特に問題はございません。それではカードのここへ、血を1滴垂らしてください。針を使えば直ぐに済みます」

「嫌です」


 僕は速攻で答えた。針で刺されるのは痛いから苦手だ。日本にいた頃も、採血を避けていた。

「カオルさん?」

「もしかしてカオル、怖いのかーー」

「針で刺されるのは嫌だ」


「あのーー。そうなると冒険者カードが作れないのですが……」

 冒険者カードが作れないのはまずい。自分で出来ないなら人にお願いすればいい。


「アキミ、すまないが、君が僕の指に針を指してくれませんか。針で刺されるのは苦手なんです」

 ここはモナミに頼むよりアキミにお願いした方が、安全だろう。


「あらあら。カオルちゃん痛くないでちゅからねーー」

 アキミがニマニマとした顔をしながら、僕に話しかけた。

 さすがに赤ちゃん言葉はやめて欲しかったが、黙っていた。


「つっ!」

 アキミは僕の指先に針を刺して、血を冒険者カードにつけてくれた。

「カオルちゃんもう済みましらからね。痛い痛いの飛んでけーー」

 アキミは面白がっていた。


「血を登録することにより、冒険者カードは本人のみが使えます。お金のやり取りもできるので、商人も持っていますね。冒険者にはクラスが存在しています。初めはブロンズクラスからです。次はシルバー、ゴールド、プラチナ、レインボーと、上がっていきます」

「えっ。ランクが上がるたびに冒険者カードは作り直すということですか?」

「はい。そういうことになります」

 ランクが上がるたびに針で刺されるのか……


「ランクを上げるメリットは何ですか?」

「そうですね……。 ランクは強さの証です。そして、高クラスになるほど、強さ以外も求められるようになります。冒険者カードの色分けがされているのはそのためです」

 んーー。ブロンズのままでいいかな……。


 受付のお姉さんが続ける。

「これも大切な事なのですが、ランクの高い依頼を受けることができます。危険ですがその分、報酬も高いです」

 高ランクの依頼を受けるのは重要かもしれない。お金を貯めたいからね。


「あと、最大のメリットは、冒険者ギルドがあるような大きい町で買い物する場合、割引があることです」

「何ですかそれ。かなりお得じゃないですか。どれくらいの割引率なのですか」

 僕は思わず受付のお姉さんに詰め寄ってしまった。


「そ、そう思われる方も沢山いらっしゃいます。それだけ高ランクの冒険者は貴重というわけです。ですが、ブロンズクラスから直ぐに割引が発生するわけではありません。あれは身分証明として発行している意味合いが強いです。次のシルバークラスから割引があり、1割り引きになります。ただし、ブロンズからシルバーになるのは難しいです。シルバーになってようやく1人前の冒険者として認められます」


「シルバーになるには、どうしたらいいのですか」

「試験などはありません。冒険者ギルドが、達成した依頼の内容を見て判断をします」

「ブロンズクラスで依頼される中で、難しい依頼ってどんなものがありますか?」


「ええっ、カオル様。いきなり難しい依頼を受けるつもりですか。それはさすがに厳しいと思われます。大体が魔物の討伐依頼になり、初心者が達成できるものではありません」

「でも僕は『魔法使い』です」

「……わかりました。1度、ギルド長と相談させて下さい。明日またいらして下さい」


「よろしくおねがいします」

「またのご利用をお待ちしております」

 受付のお姉さんは丁寧にお辞儀をした。


 帰路時、2人に話しかける。

「2人はブロンズクラスなのかな?」

「はい。私たちはブロンズクラスです。シルバークラス以降の割引はお得に思えますが、まだ子どもの内はおじいさまがクラス上げはしてはいけないと」


「じじいがまだ早いと言うんだぜ」

「おじいさんの気持ちもわかるよ。今から頑張らなくても、もっと大人になってからでも遅くはないと思うよ」


 その後、3人で生活用品を買おうと思ったが、最低限の物は屋敷にあるそうだ。

 どうやら2人は僕が最低限な品で満足できないようなものを、買おうと思っていたらしい。

 僕としては使えるものがあるならそれで良いと思ったから、何も買わずに屋敷へ戻った。

 モナミのお菓子は忘れずに買った。

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