第3話 カーサの町

 幸いなことに、町に向かう途中、ゴブリンの襲撃はなかった。

 2人の話によると、あの辺りでモンスターに遭遇するのはまれなことらしい。


「着きましたわ。ここがカーサの町です」

「疲れたのぜーー」

「ありがとう。とりあえず宿屋を紹介してくれるかな?」と尋ねたが、僕にはお金がないことに気が付いた。


「カオル様、とんでもございません。命の恩人を家に招かない訳にはいけません」

「家に来るんだぜーー。カオル」

「それは助かった。実は持ち金をどこかで落としたことに、今気が付いてね。あと服屋はあるかな? この格好は目立ってるから、普通の服が欲しいんだ」

「それでしたら、家に余っている服があります。それを使ってください」

「カオルだとちょっと大きいかもなーー」


 アキミとモナミの家は町の中心に近い所にあった。

 そして豪華な作りをした、大きな家であった。

 少なくても普通の家に門番はいない。


「もしかしなくても、君たちはお金持ちのお嬢様達だったのかい?」

「おじいさまが小さなお店をしているだけですわ」

「じじいは、商売が上手なんだぜ」


「ただいま戻りましたわ」

「戻ったぜ」

「こんにちは。カオルといいます」

 僕たち3人は門番へ挨拶をした。


「お嬢様方、どこへ行ってらしたのですか。大旦那様が心配されていました。早く元気な姿をお見せしに行ってください。ところでこちらの男性は……」

「私たちの命の恩人ですわ」

「そうなのぜ。カオルに命を助けられたのぜ」

 僕も一緒に家の中に入っても良いという事だった。


 玄関に入ると、そこには、元気そうな老人が仁王立ちし、腕を組んで待っていた。

「こら、アキミとモナミ、また勝手に森へ薬草を摘みに行ったな。護衛くらい付けて行きなさい。そして君が孫を助けてくれた御仁か。孫を助けてくれてありがとうな」

 老人は僕の方へ向いて頭を下げた。

「そうなのです。おじいさま、その方は森でゴブリンに襲われていた私たちを助けて下さった、命の恩人なのです」


 僕は客人として、応接間で詳しい話を老人にした。

 アキミとモナミはおばあさんに薬草を届けに行ったらしく、ここにはいない。

「そうか。それは孫が世話になったな。自己紹介がまだだったな。儂はミャタ・マーブルという。マーブル商会という小さな店を営んでおる。ミャタと呼んでくれ。出来る限りのことはさせてもらおう。とりあえず、その服を何とかしたかったのだな」


「そうなのです。この服は遠い異国の地で手に入れたものです。運悪く荷物を落とした時に、この服しか残っていなかったため、着ているのですが、目立ってしまうため、着替えたいのです」

「それなら、こちらで買い取らせてもらおう。めずらしい服は売り物になるからの」

 ミャタさんから提示された金額は、1人の男性が働いて得られる1年分の稼ぎ位らしい。

 普通のリクルートスーツである。しかも使い古しである。

 だが、アザレアでは不要なものだ。もうブラック企業に勤めることも、就職活動もしないだろうし。


「ありがとうございます。それでお願いします。しかし、大金を持つと危ないので、こちらで預かってもらえないでしょうか」

「何だ、冒険者カードも持っていないのかね」

「すみません。この国に着いたのは最近でして」

「そうかそれなら、アキミとモナミを連れて行かせよう。冒険者カードを作ってもらいなさい。そしてこの町にいる間は、この家に住んでもらってかまわん」

「ありがとうございます。ミャタさん。助かります」


「2人が持ってきた薬草で、婆さんが回復しているはずなんでな、ちょっと様子を見に行ってくる。すぐにアキミとモナミが戻って来るだろうから、君はここで待っているといい」

 そういうとミャタさんは部屋を出て行った。


 少しして、アキミとモナミが戻ってきた。

「カオルさんお待たせしました。おばあさまも無事によくなりました」

「ばばあ復活だぜー」

「それはよかった。薬草を採りに行った甲斐があったね。でもお金持ちなんだから、自分たちで取りに行かなくてもお願いすれば、何とかなったんじゃないかな」

「それがですね。あの薬草は魔力を含んでいるせいか、血縁者が取りに行かないと効果が出にくいのです。しかも新鮮な方が効果があります」


「だからうちら2人が取りに行くのが1番早いんだぜ」

「なるほど。薬草はそういう理由で2人で採りに行ったのか。ところで僕の服を準備してくれるんだったよね」

「はい、衣服室へ行きましょう」

「カオル。着替えだぜ」


 こんな大きな家である。メイドさんと何回もすれ違っていた。

 考えてもしなかったが、お金持ちは自分で着替えはしないらしい。メイドに任せるのだ。

 衣服室に入った時はすでに遅し。という状態であった。

 中にはメイドさんが沢山待っていた。


「カオルさんは立っているだけでよいです。あとはメイドが全て着付けして差し上げますわ」

「上着だけだよね。下着は交換しないよね」

「いいえ、おじいさまからカオルさんの身に着けているものは全て珍しいから、買い取ってよいと言われております。すでに所有権はカオルさんには無いのですよ」

「カオルーー。 抵抗しても無駄に時間がかかるだけだぜーー」


 幸いなことに、そう言うとアキミとモナミは部屋から出て行った。

 アキミとモナミに裸を見られずに済みそうだ。

 あのじいさん。変態なのか、商魂たくましいのか。

 僕は逃げようと心みたが、そこは海千山千のメイドさん達であった。

 逃げ切れるわけもなく、僕は素っ裸にされて、新しい衣類を身に着けさせられた。


「全部見られてしまった。お婿に行けなくなってしまった」

 僕は小さい声でつぶやいた。

 メイドさんからしたら男性の裸など見慣れたものであろう。

 眉1つ動かさず、仕事をしていた。


 もしかしてと思い、手のひらに小さい水を出してみる。

 よかった。まだ『魔法』は使えるようだ。そうだよな。『童貞』を喪失したわけではないからな。

 しかし、自分で着替えをしないなんて本当に商家だろうか。やってることは貴族に近いのではないか。

 あと、土下座をしてでも、下着だけは処分してもらおう。

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