愛すべき人

黒猫の旅人

短編

 由布子さんを助けてください。


 お願いします。

 手術をするため、お金が必要なんです。

 お願いします。

 お願いします。


 と、わたしは言いました。


 いったい、由布子とは誰でしょうか、わたしは知りません。いや、誰も知らないはずです。架空の存在ですから、病気で苦しんでいるはずもないのです。これは嘘でしかないのです。できることなら、こんなことをしたくはありません。しかし、仕事がないのです。それに、架空の存在であるのですから、誰にも迷惑をかけることないでしょう。少しばかりのお金を恵んでほしいと思っているだけなのです。仕事が見つかったとしたら、ボランティアをしたり、自然保護をしたり、困っている人を助けるつもりでもいます。

 しかし、仕事がないのです。お金がないのです。子供が二人いますし、こんなことをしてでも、わたしにはお金が必要になっていたのです。

 ただ、本当の話をしたら、私はたくさんの人たちから否定されて、SNSなどで攻撃されて、きっと、人権すら失うことになるでしょう。もちろん、私だけならいいんです。ただ、私には子供がいるのです。彼らに罪はありません。いや、罪と罰の話など止めましょう。そんな話は物語だけで十分です。



 問題があるとしたら、それは由布子さんだけです。


 由布子さんとは誰でしょうか、わたしは知りません。架空の存在ですから、病気で苦しむこともないのです。だからこそ、私は由布子さんを許すことができないのです。許せないからこそ、私は由布子さんの助けを求めるのです。



 それは純粋なことだと思いませんか?



 由布子さんを助けてください。


 お願いします。

 手術をするため、お金が必要なんです。

 お願いします。

 お願いします。

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