第2話 能力者の国
あれが、フォルダー本拠点トレース……。国じゃね?どこが本拠点、国の間違いでしょ。だから、フォルダーが潰されないのか。規模がほぼ国な以上、そう簡単に戦争できないもんな。ん?壁、たかっ!
俺が、トレースを見て1人で納得していると、すでに目の前にトレースを囲う防壁にある門の近くまで来ていた。防壁は、それだけで50m以上は、あるのではないかと感じさせるほど高い。
門には、人が2人いる。外に1人、事務所?っぽい所に1人いる。おそらくは、門番だろう。2人の門番は先生と俺が近づいてきた事に気づいた。先生も、門を近づくにつれてホバーの速度を落とし、外にいる門番の前で止まると、門番の方が先生へ向けて声をかける。
「任務お疲れ様です!早瀬団長」
「そっちも門番ご苦労様。通っていいかい?」
「少々お待ちください。すぐに手続きが終わりますので」
さすが先生。尊敬されているんだな。まあ、先生がこの人たちより上の立場なのもあるだろうけど、かなり信用されているんだろうな。
外に出ていた門番が事務所方へ行き、すぐに戻ってくる。
「手続きが済みましたので、どうぞお通りください」
「ありがとう。じゃあね~」
先生は手続きを終え、ホバーをもう一度走らせる。門を超えると、目に入る光の強さが増し一瞬、目が眩む。
「募、トレースへようこそ!」
光の強さに慣れてきて、トレースの全体像が見えるようになった。様々な建物が立ち並び、道の奥には、他の建物と比べても圧倒的に巨大である事がわかる。
人々が道を行き交い、買い物や会話をしている。それ自体は、三国でも見られる何でもない光景。しかし、ここにいるのは、ほとんどが能力者である事に感動していた。その間も先生は、奥に見える巨大な建物へ向けてホバーを走らせながら、俺の様子を見て少し誇らしげに聞いてくる。
「トレースはどうだい?感動のあまり、声も出ないってところかい?でも、感動のあまり倒れるような事はやめてくれよ?募が死んだんじゃ私の面目が立たないからね」
「そんな事しませんよ先生」
「そうだね。そんな事で倒れられても私が困る。なんたって、この後、君には私たちをまとめ上げるフォルダーのボスに会ってもらうんだからね」
「え?」
先生の発現に驚いて、すっとんきょうな声が口から洩れる。
マジか。この人、そういうのは、先に言っといて欲しかった。フォルダーをまとめるある種の国王兼軍の最高司令官。下手な事を言おうものなら俺の首飛ぶなんてことも視野に入ってくる。それに、俺は完全に目上の人物と相対した経験が圧倒的に足りない。どうなる事やら……。
「君は、私の弟子なんだから大船に乗ったつもりで安心したまえよ!それに、お爺ちゃんは、君みたいな子供にだだ甘だしね」
そういわれても、不安は残るものなんですが……。まあ、
俺がそんな事を考えていると、巨大な建物の足元へとたどりついていた。周囲の景色は風変わりし急に活気といったものが消える。巨大な建物へと続いていた道の先には建物の壁しかなく、このままだと衝突しまうようになっていた。
う~ん?壁しかないよな。あれ、俺死んだ?嘘だろ?!マジかよこのままだと壁とぶつかる!この速度、先生は大丈夫でも俺は間違いなく死ぬ。どうすれば。
先生は、俺が背後で慌てている事に気づき、呆れたかのような溜息をもらす。
「まったく、何を焦っているんだか。私が、募がいるのに君が死ぬような真似をするわけないだろ?なに、今にわかるさ。安心して乗っていたまえ」
そんな事言われても、こっちは会って数時間の仲なのに、先生がどんな事をやらかすのか知らないんですけど!やばっ!ぶつかっ……てない?なんで。
「フッフフッあはは!ほんと、募は面白い反応をするね」
先生は後ろを指す。振り返り後ろを見ると、そこには衝突しそうになった壁があった。
「ここの壁は、出入口兼侵入者防止の門になってるのさ!さっきの門での手続きは、この壁を通過するために必要なものだったのさ。驚いたかい?」
この人……遊び心が過ぎると思うんだけど。本当に心臓に悪い。
「募が、緊張してるみたいだったからリラックスになると思ってね。緊張は、ほぐれたんじゃないかい?」
先生のふざけた雰囲気が一瞬鳴りを潜めたが、すぐに先ほどと同様な調子に戻る。
「……確かに、緊張は、ほぐれましたけど、心臓に悪いんで次からは先に言ってください」
「まあ、善処するっとだけ言っとこうかな」
この人、反省していないな。
壁を抜けてすぐ、いくつものホバーが立ち並ぶ保管庫へ入った。多くのバイク型のホバーは、天井のアームに吊るされるように保管されているが、いくつか地面に固定されているホバーが見られる。そんな中のバイク型を止めるために空いてあるであろうスペースにホバーを先生は止める。
「下りたら3歩下がっておいておくれよ。募も機械に挟まれたくはないだろう?」
先生が忠告した通り、下りてすぐにホバーから3歩下がった。先生も、ホバーのエンジンを停止させると、先生もホバーから3歩ほど離れる。それと同時、ホバーの下の地面が動き出てきたアームがホバーのバイクならタイヤに当たる部分と、ハンドルを地面に固定する。
「さぁ、行くよ募」
先生は、俺の横を抜け、背後にある通路へ歩いていく。すぐにエレベータの乗り場について初めて気づいたが、ここは建物の地下に当たるようだった。エレベータに乗り、最上階まで上がる。エレベータを降り、40秒程度歩くと、両開きの扉の前で先生が止まり、扉をノックしながら中にいるであろう人物へ声かける。
「お爺ちゃん。任務終わったから報告しに来たよ」
えぇ……そんな祖父へ会いに来たみたいな言い方でいいの?一応、
「入ってきなさい」
若干の間の後、中から重みを感じるような威厳のある声が返ってきた。
「は~い」
先生が扉を開けると、さっき扉越しに返ってきた声なのかと思えるような優しい笑顔を浮かべ、先生の軍服の上着を脱いだような服に身を包んだ初老の男性が中で待っていた。
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