第1話 少年・美女移動中
そういえば、この後、どうやって能力者の拠点に行くんだろうか?そもそも、流れで先生に付いていく事になっているけど、色々ツッコミ所多いな。まあ、行く場所と方法は聞いといた方がいいだろうな。
俺に背中を向け森の中を先導している先生に質問する。
「あの先生。今更なんですが、今向かっている場所ってどこですか」
「ん?あぁ、そういえば、まだ話してなかったね。大体検討はついているだろうけど、私たちフォルダーの拠点さ。場所はちょうど、三国がない南南西の方だね~。まあ、いろんな所に拠点自体はあるんだけどね。今は話しても意味がないからね、考えなくていいよ」
大陸の南南西……。三国からは、離れるような形になるな。この村は、群馬成王帝国の末端に位置していて、南南西の方には、比較的近いと言える。それでもかなりの距離があるはずだが、どうやって移動するのだろうか。
先生は、振り返らずに一瞬考える素振りをして立ち止まる。
どうしたんだ?まだ、森を抜けたわけでもないのに。
何かに気づいたかのような反応をした次の瞬間、先生がすごい勢いで振り返り、俺の方を掴む。
「き、君。今、私の事先生っていったのかい!どういった心境の変化なのさ?!」
「何って、俺を鍛えてくれるんですよね。それなら相応の呼称があるでしょうし、敬うべきでしょう。それを表すためにも、とりあえず呼び方変えてみました」
先生は、俺の言葉を噛みしめるかのように肩を震わせる。
何を言っているんだこの人は、何当たり前の事でそんな反応しているんだ?もしかして、先生の地雷を踏んでしまったか?
「そうだね。私は、今日から君の先生だったよ!さぁ、さっと帰ろう。君、いや、募も疲れてるだろう、早く帰って訓練のためにしっかり休んでもらわないといけないからね!」
上機嫌になって森の中を進む先生。歩く際にどうやっているのかわからないが、俺が通りやすいように道を作ってくれている。
どうやって向かうのか聞き損ねてた。ここからだとかなりの距離があるだろう。徒歩なら3週間は固い。馬車を使って早くて2週間、状況次第によっては、徒歩とあまり変わらない事もざらだ。それをどうやって……。
「聞き損ねたんですが、南南西の方だとここから距離がありますよね。どうやって移動するんですか。普通なら5日ほどかかってしまいますよね?」
「うんうん。よくぞ聞いてくれたね!さすが、私の弟子だ!あれを見たまえ!」
森を抜けかかっていた事もあり、森の外の景色が見えていた。そこには、群馬成王帝国の軍でも、なかなかお目になれないバイク型のフォーミュラーホバーがあった。
え?なんでこんなところにホバーが?!まさか……。
「あ、あれで、帰るんですか?!」
「そうだとも!君も、見たり聞いたりしたことが一度はあるだろう!何を隠そう、正真正銘!男の子が一度は夢見るフォーミュラーホバーさ!さぁ、早速乗りたまえ!」
先生に催促され、ホバーに跨る。
うん?一瞬、俺が触った場所光ったか?気のせいか。
先生がエンジンを起動させると、ホバーは地面から30㎝ほど浮遊する。
「しっかり掴まっておきたまえよ。さぁ出発だ!!」
俺と先生が乗るホバーは、静かに加速し、風を切る。正面からどんどん景色が後ろへと流れていく。
めっちゃ速い。速度は……ざっくり時速100㎞ぐらいか?もっと速く感じるな。でも、あまり風を感じないのは、ホバーのおかげか?いや、それにしても初めて乗ったけど、乗り心地も最高!こんなの初めてだ!上下に揺れないおかげで腰が痛くならないし、速度も速い!最高か?!おっと、ホバーに興奮しすぎてた。
ホバーの方に流れていた意識をさっきから浮かんでいる疑問の方へ戻す。
それにしたって、このホバーは、やっぱり先生が所属する組織のモノか?いや、能力者の組織でそんな事が可能なのか?うん。考えてもわからない。直接聞く方が早いだろうしな。
「先生。このホバーって先生が所属している組織のモノなんですか?」
「いや、これは私物だよ。そんな事を聞いてくるってことは、私が所属する場所に興味があるのかい?」
は?え?これ私物なの?!嘘だろ!
先生は、俺の混乱をよそに自分が所属する組織の説明を始めた。
「しばらく乗りっぱなしだからね。ちょうどいい、私が所属する組織、能力者について説明してあげようじゃないか!心して傾聴したまえよ」
~~~~
あれから、約2時間一切減速せず、それから草原、山岳周辺を駆け抜けた。ホバーの特性によって路面の影響を受けず、また、地形もある程度なら無視できる事もあり、後少しで目的地に着くといったところまで来ていた。
その間、ずっと能力者、先生の所属している組織について説明が続いていた。
「……って感じなのさ!まあ、今の1回で覚える期待はしていないからね、安心することだ!訓練の中で覚えていけばいい話だからさ!」
うん。一旦、覚えてる範囲でいいからまとめよう。
まず、能力者。単純に特別な力を使える人間。なぜそのような力が使えるのかは、わかっていない。一般的に、能力者は人外っていわれてるけど、ちゃんと人間だ。能力者が使う力を「フェイルノート」と呼んでいる。この力の強さは、体との相性もあるが、精神に受けたダメージが大きいほど強力になりやすい。
次、先生が所属する能力者の組織「フォルダー」。国家非承認組織。実質、テロリスト。活動内容が、俺みたいな境遇の能力者を助ける。あとは、化け物の討伐と色々。半分国の軍みたいなもの。フォルダーは、能力者の町を作っている。町を守るために部隊を作っていて、その部隊の長の1人が先生らしい。
こんな感じだった気がする。いや、もっと細かい話をしていたけど、何言っているのかよくわからない中、これだけまとめられた俺をほめたい。
俺が、先生の話を頭の中で整理をつけていると、先生が声をかけてくる。
「募。もう少しで私たち、フォルダー本拠点トレースに着くわけだが、1つここで約束してくれないかい?これからの訓練において、私の指示を絶対に従うと」
先生の言葉に不意を突かれたが、俺の中でもとより決まっていた。強く、より強く。そのために……。大声でもなければ、何かに誓いを立てたわけではない。ただ静かに、力強く言葉を紡ぐ。
「はい。従います」
「よろしい。さぁ、見たまえ!あれが私たちの本拠点トレースだ!」
山間部を抜け、視界が開けると、そこには、平原の中心で朝日に照らされた都市と呼べるであろう建物の数々と防壁があった。
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