テールフラグメンズ
語部 歯車
プロローグ
「ハァッハァッ」
足が千切れそうだ。肺も痛い、止まってしまいたい。でも、ダメだ。少しでも離れないと殺される!あいつに!化け物に!こんなところで死んでいられない!俺たちを見捨てたあいつらを殺すまで、殺されてなるものか!
暗闇が覆う森の中、木々を避けながら駆け抜ける。全身が悲鳴を上げるが、それを無視し脚を動かす。俺を駆り立てている物が何によってのモノなのかわからない。死への恐怖のためか、憎悪によるものなのか。それを判断している余裕はなかった。ただ死ぬわけにいかないと思っていた。けれど、そんな気持ちは命を狙う者にとっては些細な違いもない。ただ、機械的に殺すだけ。何も変わる事はないはずだった。化け物を凌駕する強者によって、結果を捻じ曲げられた。
背後から肉が抉れるような音と共に俺の全身に液体が大量に付着する。振り返るとさっきまで俺を殺そうとしていた化け物の首が飛んでいた。何が起きたのかはわからなかった。一方で、何となく、目の前の女性が化け物を殺した事だけは理解していた。
化け物があっけなく殺され、安堵するような余裕はなく、目の前の白い軍服で身を包んだ女性を観察するように目を向ける。
誰だ?白い軍服?え?こいつがやったんだよな?誰なんだ。というか、どうやって殺したんだ。何かを投げたりしたようには見えなかった。
「君が任務の保護対象か、お疲れさん、私と合流できたってことは身の安全を確保できたことと同意義だからね。咽び泣いて喜んでもいいんだよ?」
「……な」
この女は、何て言った?安心していい?アンシンシテイイトイッタノカ?任務だったのだろ?じゃあなぜ、もっと早く来なかった。そうすれば、母さんと父さんは助かったはずだ。なのになぜ。
「ん?あ〜ありがとう?いや礼は別にいいよなんていったって当然の事をしたまでだからさ!」
待て待て、落ち着け俺。今こいつに当たってどうなるんだ。確かにこいつがもっと早く来ていれば父さんと母さんは助かったかもしれない。けど、それは、どこまで行っても仮定でしかない。実際にはそうはならなかった。それだけだ。それだけなんだ。
「で?他の保護対象じゃわからないか。君のご両親はどこにいるんだい?命の恩人である私に教えるのが君ができる当然の感謝の形だと思うんだけどな~」
自慢げな顔で俺を見つめる。内から湧いて出る怒りに蓋をして返答する。
「……わかりました。案内します、ついて来てください」
俺を先頭に森の中を進む。さっきまで気づかなかったが、月が明るく森を照らしている。
皮肉なもんだな。こんな惨劇っといっていい時なのに今日の月はいつもより綺麗だ。あっそういえば、まだ、この人の名前聞いていなかったな。聞いてみるか。
後ろ振り返らず、後ろにいる彼女へ今ふと思い浮かんだ疑問を聞く。
「そういえば、名前を聞けてなかったのですが、あなたはどこの誰なんですか?」
「ん?私とした事が、私自身の紹介を忘れるなんて!本来、君は私から直々に私の事はおろか、私の姿を拝む事なんてできないのだが、説明しようじゃないか!感激のあまり泣かないでくれよ。道案内できなくなると困るのでね」
「やっぱいいです」
「遠慮なんていいよ!私は、フォルダー第3番隊団長、
人の話聞いてないな。フォルダーか、聞いた事ないな。公にされていない組織か?いや、それにしては堂々と話しすぎてる。それに早瀬?は能力者だ。父さんや母さんみたいな能力者は、迫害の対象で軍に入隊などもってのほかだ。となると、やっぱり能力者だけで構成されている非公認の組織。三国も知らないのか?知ってたら真っ先に潰すはず、潰すとなったら兵を集めるためにこの辺の村にも徴兵がかかるはずなのに無いという事は、隠匿ができているという事なはず。ますます、わからなくなってきた。て、もう少しで着くな。
「早瀬さん、もう少しで着きます」
「そうかい、いや~これで任務が終わると思うと、気が楽だよ」
村に近づき木々の数が少しずつ減り、種類も変わってきた。これから見るモノを想像し、覚悟を決める。木々が無くなり、視界が開ける事で、惨状が目に映る。
家は、ほとんどが、破壊されている。残っている家の壁は、赤く彩られ、屋根からは血液がしたたり落ち、臓腑をまき散らし下半身がない人がぶら下がる。炎がそれらを焼き、人が焼ける酷い匂いが鼻に絡みつく。
「チッ!もう、全滅していたのか」
村から逃げ出す時に一度見ていたのもあり、慣れていたのかもしれない。俺の中で揺れる事はなかった。両親と別れた場所に向かい歩く。すぐに目的地にたどり着いた。
ここにいたんだ。ただいま。母さん。父さん。
そこには、周りの
「その二人が君の両親かい?」
「えぇ。少し顔に面影あるでしょう?で、両親に用があったのでしょう?どうかしましたか?」
「おかしいね。君は両親が目の前でこう無惨に死んでるのに何も感じないのかい?」
人の心にずけずけと……気にしてもしょうがないか。外からしたら涙も流さない無慈悲なガキだからな。
「別に悲しくないわけじゃないです。でも、覚悟はできていたので。化け物が俺を追ってきていた時点で二人が死んでいたのは想像できていましたし」
「そこまで、達観した子供を見るのは初めてだよ。君、いい狂い方したね。私が評価してるんだよ?もっと喜びたまえ」
「ありがとうございます」
「そこは、怒るところだと思うんだけどな~」
何か。言ったか?まぁ、どうでもいいか。でも、こっからどうしたものか。住む場所なければ、生きていくための資金もクソもない。
「ところで、保護対象君。君は、今から私が私たちの町へご招待するわけだけど。この後、どうするつもりだい?何もないなら、君は孤児院預かりになるわけだけど」
孤児院。俺みたいな境遇の子はざらにいるだろうしな。このままいけば、俺は孤児院でお世話になる。本当にこのままでいいのか?何も成せず、二人の命を犠牲して逃げたのにもかかわらず、この人がいなければ死んでいた。このままじゃ何もできない。ただ奪われることしかできない。次は命かもしれない。死ぬわけにはいかない。なら、この人が強い理由を知りたい。俺が強くなるために。そのために必要なのは。
俺は彼女へ向き直り、彼女の瞳をとらえながら決意を込め言葉を紡ぐ。
「早瀬さん。俺を強くしてください」
俺の言葉に意表を突かれたように呆けた顔をしたが、すぐに戻り、俺の中を覗き込むように見つめてくる。
「何の為に?もしかして、復讐とか考えてる?何に対してとかはわからないけどさ」
「生きるためです。少しでも長く」
俺は、彼女の質問に対し、目をそらさず言葉を返す。彼女は、口角を吊り上げ、笑い出す。
「アッハハハハハハ!君面白いね。特にその眼!最高だ!いいだろう。この私が君を鍛えてあげよう。さあ!そうと決まれば、さっさと帰って訓練を始めるとしようか!」
俺は、早瀬さ……いや、先生についていく事に決めたのだった。
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