第23話 魔法学校の昼下がり、笑いと波乱の食堂

王立魔法学校の午後、カルヴァンたちが座る教室では、魔法魔術史の授業が始まろうとしていた。


「魔法の歴史は、我々の文明の礎となっている。今日はその起源について学んでいきます。」


講師のジャスパー・コーネリアス先生が立派な顎髭を撫でながら語り始める。

彼の穏やかな声は教室全体に響き、生徒たちは静かに耳を傾けていた。


カルヴァンもまた、真剣な表情でノートを取っている。

しかし隣をちらりと見ると、リリスが机に突っ伏し、鼻ちょうちんを膨らませていた。


(リリス、堂々と寝すぎだよ…)


カルヴァンは思わず苦笑しながらも、ジャスパー先生の視線がリリスに向かうのを感じ、焦りの色を浮かべた。


「おや、ここで寝ている生徒がいるようだね。」

ジャスパー先生の静かな声が教室中に響き渡る。


「リリス、起きて!」

カルヴァンが小声で囁いた瞬間、リリスはびくっとして目を覚ました。


「す、すみません!」

リリスは慌てて姿勢を正し、顔を真っ赤にして謝る。


「授業は面白くないかもしれないが、魔法の歴史は重要だ。しっかりと学ぶように。」

ジャスパー先生は優しく言いながら、再び講義を再開した。





授業後、カルヴァンたちは学校の食堂へ向かった。

賑やかな食堂の中、彼らはいつもの席を見つけて腰を下ろす。


「この学校って、本当にいろんな人がいるよな。」

ガイルが周囲を見渡しながら言った。


「まあね。色んな魔法が学べるし、みんな真剣だよ。」

カルヴァンが答えると、リリスはフォークを手に持ちながら不満げに呟いた。


「でも、もっと面白い授業があってもいいと思うわ。」


その時、食堂の入り口からアイリスが笑顔でやってきた。

彼女の姿に気づいたカルヴァンが手を振る。


「アイリス、こっちに来て座らない?」

「ありがとう、カルヴァン。」

彼女はカルヴァンの隣に座り、親しげに話しかけた。


「授業はどうだった?」

「まあ、退屈しなかったけど、魔法の歴史ってちょっと難しいよね。」

カルヴァンが答えると、リリスがからかうように笑った。


「ふーん、あんたが歴史に興味があるなんて意外ね?」





そんな和やかな雰囲気を破ったのは、ガイルの行動だった。

彼はふと立ち上がり、隣のテーブルに座る女子生徒たちに近づいていった。


「よし、俺の筋肉アピールで新たな伝説を作ってやる!」

自信満々に呟く彼の背中を見ながら、カルヴァンたちは呆然とする。


「お嬢さんたち、調子はどうだい?」

ガイルは爽やかな笑顔を浮かべ、腕をまくって力こぶを見せつける。


「俺、ガイルって言うんだ。筋力強化魔法を得意としててね、頼れる男だと思うんだ。」

彼は女子生徒たちに向かってポーズを取り、さらには「触ってみる?」と自慢げに腕を差し出した。


しかし、女子生徒たちは苦笑しながら一言。


「あの…ちょっと暑苦しいかな…」

さらに別の子が、「ごめんなさい、静かに食事したいんです。」と冷たく言い放つ。


「えっ…暑苦しい…?」

ガイルはその場で固まり、肩を落としてカルヴァンたちのテーブルに戻ってきた。


「俺の筋肉が…受け入れられなかった…」

彼は突っ伏し、深いため息をつく。


その様子を見たリリスはスープを吹き出しそうになりながら大爆笑。


「ガイル、あんたマジで女子に筋肉アピールしたの!?しかも暑苦しいって振られるとか、お腹痛いんだけど!」

イザベルも控えめに笑い、カルヴァンは困ったように肩をすくめる。


「まあ、そういうこともあるよ、ガイル。」

「くそ…俺の筋肉、どこで間違ったんだ…」

ガイルのつぶやきに、リリスの笑い声がさらに響き渡った。





そんな賑やかな一幕の後、突然ハラーガ・ヘッターとその取り巻きが現れた。

彼らの冷たい視線がカルヴァンたちのテーブルに注がれる。


「こんなところで何をしているんだい?」

挑発的な声に、カルヴァンは冷静な表情で答えた。


「ただ昼食を楽しんでいるだけだよ、ハラーガ。」


しかし、ハラーガは続けて嫌味を投げつける。


「平民がどれほどやっていけるのか、少し気になるところだね。」

さらに「特に君のような芋虫がね。」とカルヴァンを指さす。


リリスが怒りを堪えきれず立ち上がろうとするが、アイリスが静かに手を伸ばして彼女を止めた。


「リリス、ここは落ち着いて。」

そしてアイリスは冷たい目でハラーガを見据え、一言。


「私が誰と友人になるかは、私が決めます。あなたのような人には関係ありません。」


ハラーガは一瞬戸惑ったものの、冷笑を浮かべて去っていった。





その後、放課後の庭で一息つくカルヴァンたち。

ガイルはまだ筋肉の件を引きずっている様子だが、カルヴァンは静かに言った。


「ありがとう、みんな。これからも一緒に頑張ろう。」

全員がその言葉に頷き、新たな一歩を踏み出す決意を胸に刻んでいた。


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