第2章

第20話 友との邂逅、夢への一歩

王都の門をくぐったカルヴァン、リリス、そしてアイリスの三人は、まず王都の中心に位置する行政区へと足を向けた。


王宮がそびえ立つ行政区には壮麗な建物が立ち並び、その圧倒的な存在感にカルヴァンとリリスは思わず見惚れてしまう。


「ここが王宮よ。王都の中心でもあり、王国の象徴でもある場所だわ」

アイリスが誇りを感じさせるように説明すると、カルヴァンは頷きながら感嘆の声を漏らす。


「本当に立派な建物ですね。まさに王国の象徴だ……」


リリスも目を見開きつつ、「こんなに威圧感があると、王族以外は近寄り難いわね」とつぶやいたが、その目には新しい世界を目の当たりにするような興味が隠されている。


続いて彼らは商業区へ向かう。

市場では様々な商品が並び、人々の笑い声や商売の掛け声が飛び交い、活気に満ち溢れている。


「見て、カルヴァン!こんなにたくさんの品物が!」

リリスはまるで子供のように目を輝かせ、次々に並ぶ色鮮やかな商品に釘付けだ。

カルヴァンも楽しそうに笑いながら、「王都って、やっぱりすごいですね。地方じゃ見かけないものばかりだ」と市場の賑やかな雰囲気に浸る。


商業区を満喫した後、次は貴族街に入る。

ここでは豪奢な屋敷が立ち並び、庭の手入れが行き届いた邸宅が並ぶ様子はまさに別世界のようだ。


「こちらが貴族街。私の家もここにあるの」

アイリスが少し誇らしげに語ると、カルヴァンは感心して周囲を見渡す。


「貴族の生活って、本当に豪華なんですね……」とつぶやくカルヴァンに、リリスが少し不機嫌そうに眉をひそめながら、「ふん、こんな場所、住みにくそうね」とつぶやくが、その瞳には少しの不安も浮かんでいる。


続いて彼らは平民街へと向かった。

ここは賑やかで温かな雰囲気が漂い、道行く人々の顔には明るい笑顔が溢れている。

「ここは平民街。いろんな人が集まっていて、王都の中でも活気に満ちた場所よ」と、アイリスが説明すると、リリスも自然と笑みを浮かべる。


そして最後に貧民街へと足を運ぶ。

ここは他の場所と違って暗く陰鬱な空気が漂い、道端に座り込む人々や崩れかけた家屋が目立っていた。


「ここが貧民街……生活が苦しい人々が集まる場所ね」

アイリスが声を落として説明すると、カルヴァンは目を伏せながら、静かに決意を固めるように呟いた。


「いつか、こういう場所を少しでも良くしたい」


アイリスはそんなカルヴァンの横顔を見つめ、ふと微笑んで、「そうだ、せっかくだから二人に感謝の気持ちを伝えたいの」と言った。


「もしよかったら、今晩は家で夕食をご一緒しないかしら?」


カルヴァンとリリスは顔を見合わせ、そして同時に頷く。「もちろん、喜んで!」カルヴァンが答えると、アイリスも嬉しそうに微笑んだ。





フォーレン伯爵家に到着したカルヴァンとリリスを、アイリスは両親に紹介する。


「お父様、お母様、こちらがカルヴァンさんとリリスさん。私を助けてくれた方々なの」


アイリスの父、フォーレン伯爵エドワードは柔らかな微笑みを浮かべながら手を差し出し、「君たちがアイリスを助けてくれたんだね。私はエドワード・フォーレン、一応伯爵だ。」と自己紹介する。

彼の誠実な眼差しがカルヴァンとリリスを温かく包む。


続いて、アイリスの母エリザベスが優雅に一礼し、「私はエリザベス・フォーレン。アイリスの母です。お会いできて嬉しいわ」と、穏やかに挨拶をした。


カルヴァンは軽く咳払いをして、「カルヴァンです。深淵の森で育てられ、今は……魔法を学びながら旅をしています。王立魔法学校に入学を目指しているんです」と自己紹介した。

エリザベスの美しさに一瞬戸惑いながらも、しっかりとした声で答える。


リリスも少し緊張しながら「私はリリス。カルヴァンと一緒に旅をしています。よろしくお願いするわね」と続けたが、少し不安の色が見え隠れしている。


「そうかそうか!それは素晴らしいことだね」エドワードは頷きながら、「君たちの夢を応援しているよ、困った事があったら頼ってくれ」と温かい言葉をかけた。





彼らは豪華な夕食の席に案内され、食卓には目にも鮮やかな料理が並べられていた。

フォークやナイフの使い方が複雑で、リリスはどれを手に取っていいか迷い、目を泳がせている。


「あ、あの……これはどうやって食べれば……?」と小声で戸惑うリリスに、アイリスがクスッと微笑んで「こうやってナイフとフォークを使うのよ」と丁寧に教えてくれる。


リリスは眉をひそめながらも、「ふん、これくらい、すぐに慣れてみせるわ!」と強がるものの、見よう見まねで何とかやろうと必死だ。

隣で見ていたカルヴァンが、微笑みを浮かべながら小声で「リリス、ナイフはこう持つんだよ」とささやくと、リリスは照れくさそうに「ありがと。でも、からかわないでよ」と軽く頬を染めて返す。

その様子にアイリスも小さく笑みを漏らしていた。


夕食の席で、カルヴァンは深淵の森からカルン村までの冒険について話し始めた。

エドワードとエリザベスは興味津々で耳を傾け、「それは大変だっただろうけど、その経験が君たちを強くしてくれたんだね」と感心していた。


夜が更け、エリザベスが「今夜は泊まっていってはどうかしら?」と勧めるが、カルヴァンは丁寧に断った。


「それでは、比較的リーズナブルで評判の良い宿屋『騒ぐ妖精亭』まで送りましょう」

アイリスが提案し、彼らはその提案に従った。





騒ぐ妖精亭に到着すると、元気な女将が迎えてくれた。

「いらっしゃい!今日はどちらから?」

女将が声をかけると、カルヴァンは笑顔で答えた。


「王都に来たばかりです。これからお世話になります」


二人は屋の食堂で、蜂蜜酒とエールを飲みながら、これまでの冒険や今後について語り合った。


「これから、どんなことが待っているんだろうな」とカルヴァンが呟くと、リリスは静かに微笑んで、「きっと、楽しいことがたくさん待っているわ。あ

んたと一緒なら、どんな困難も乗り越えられるもの」と優しく答えた。


カルヴァンはその言葉に励まされ、微笑みを返した。

「ありがとう、リリス。君がいてくれて、本当に心強いよ」


二人はしばらくの間、静かに杯を傾けながら、これからの未来に思いを馳せた。

宿の窓から見える星空は、まるで彼らの新たな冒険を祝福しているかのように輝いていた。





一方、フォーレン伯爵家では、エドワードとエリザベスが暖炉の前で穏やかに話していた。


「カルヴァンとリリス、本当に素敵な子たちね」とエリザベスが優しく微笑むと、エドワードも頷きながら言葉を返した。

「ああ、彼らならアイリスとも良い友達になってくれそうだ。特にカルヴァンには、何か……特別なものを感じる」


「そうね。二人がどんな未来を築いていくのか……とても楽しみだわ」とエリザベスも遠くを見つめるようにして、彼らの未来に思いを馳せる。





翌朝、カルヴァンとリリスは早起きし、王都の澄んだ朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

少し冷たい空気が心地よく、二人の心を引き締めてくれる。


「さあ、今日から新しい生活の始まりだね」

カルヴァンが爽やかな笑顔で言うと、リリスも力強く頷いた。


「まずは王立魔法学院への入学手続きをしなくちゃね。アイリスも一緒に来てくれるって言ってたし」


「うん、彼女の助けがあれば心強いね。手続きもきっとスムーズに進むはずさ」


二人は宿を出て、アイリスとの待ち合わせ場所へと向かう。

朝日に照らされた王都の街並みを背に、彼らの新しい冒険がいよいよ始まろうとしていた。





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