第19話 王都目前、ムッツリスケベと盗賊の試練

馬車の中、揺れるリズムに身を委ねながら、カルヴァン、リリス、アイリスの三人は穏やかな時間を過ごしていた。


カルヴァンの隣にはリリス、そして向かいにはアイリスが座っている。


「それで、あなたたちはどこから来たの?」

アイリスが柔らかな微笑を浮かべながら、何気なく尋ねた。


その声にカルヴァンが顔を向けると、ふと彼の視線はアイリスのドレスの胸元に吸い寄せられてしまった。


(こ、これは……!リリスの控えめなのももちろん可愛いけど、やっぱりこういう壮大な山々は男のロマンだよなぁ……!)

心の中で盛り上がり、視線を逸らそうとしても、気づけばまたアイリスの谷間に戻ってしまう。


ちらちらと視線を動かしつつも、どうにもその豊かな曲線から目が離せない。

内心冷や汗をかきながらも、つい見入ってしまうカルヴァン。


「……カルヴァン?」

隣で冷たい視線を投げかけるリリスが、ジトっとした目で睨んでいるのに気づく。

彼女は一瞬、口元を引き結び、「何考えてんのよ」と言いたげにため息をつく。


「や、やばい!」

カルヴァンは心の中で叫んだが、遅かった。

リリスが身を乗り出し、耳元で冷たい声で囁いた。


「ねぇ……どこ見てんの?」


その冷ややかな声に、カルヴァンの心臓が跳ね上がる。

そして次の瞬間、容赦なく脇腹をぐりっとつつかれた。


「痛っ!」

カルヴァンはびくっと体を縮め、バツが悪そうに振り向くと、不思議そうに見つめるアイリスの視線に気づき、慌てて言葉を繕った。


「ぼ、僕たちは深淵の森から来たんです!」


「深淵の森から?それは珍しいわね。何か特別な理由があるの?」

アイリスは興味津々に尋ねてくる。


「ええ、アルバンシア王国の王立魔法学校に入学するためなんです」

カルヴァンが話を戻すと、アイリスの表情がぱっと明るくなった。


「まあ、そうなの!実は私もその学校に通っているのよ!」


「本当?それなら、色々教えてもらえると助かるわ」

リリスも話に乗り、和やかな雰囲気が戻る……

が、その瞬間だった。


馬車が突然大きく揺れ、三人は思わずバランスを崩しそうになる。


「な、何!?」


窓の外を見ると、以前退治した盗賊団の生き残りが、仲間を引き連れて再び襲撃してきたのだ。


「リリス、気をつけて!」

カルヴァンは一瞬で冷静さを取り戻し、魔力を練り始めた。

揺れる馬車の中で、彼の視線には敵の位置と動きが正確に見えている。


「フレイムアロー!」

カルヴァンの手から放たれた炎の矢が、鋭く空を裂き、次々と敵に命中していく。

炸裂する火花と熱風が彼の頬をかすめる中、盗賊たちは悲鳴を上げ、崩れ落ちていった。


「ダークネス・バインド!」

すかさず隣のリリスも闇属性の魔術を発動し、地面から闇のツタが生えて盗賊たちの脚を絡め取る。ぐいぐいと巻きつくツタが締め上げ、敵の呻きが響きわたる。


「ここまで来たのが運の尽きね……!」

リリスが冷ややかに吐き捨てると同時に、闇の刃が彼女の手元に浮かび上がる。

「ダークネス・スラッシュ!」

一閃、盗賊たちは次々と闇の刃に切り倒され、息をのむ迫力が場を支配した。


「アイスランス!」

続いて、アイリスが鋭い氷の槍を生成し、敵に向かって放つ。

その氷の槍は一瞬の隙もなく盗賊を貫き、『アイスウェーブ』と続けざまに放たれた氷の波が敵を飲み込み、その動きを凍りつかせていく。

いつもの柔らかい笑顔は消え、戦闘中の冷徹な表情がそこにあった。


三人は息を整え、すべての敵が倒れたことを確認して静かに立ち尽くす。

辺りに漂う冷たい空気とわずかな血の匂いが、戦闘の余韻を残していた。


「ふぅ、これで一安心だね」

カルヴァンが深く息を吐き、ほっとしたように笑みを浮かべると、


「さっきのマナのコントロール、結構うまくなってきたじゃない」

リリスが微笑んで肩を軽く叩いた。


「二人とも、本当に強いのね……思わず息が止まってしまったわ」

アイリスも驚嘆の表情で二人を見つめている。


「アイリスさんの魔法もお見事でしたよ」

カルヴァンが感謝を込めて言うと、アイリスは少し照れたように微笑んだ。


「これで安心して進めるわね」

リリスも頷き、三人は再び馬車に乗り込んで王都へと再出発した。


道中、アイリスは王立魔法学校や王都の素晴らしさについて語り、カルヴァンとリリスの期待はさらに膨らんでいく。


そして数日後――


ついに三人はアルバンシア王国の王都に到着した。

石造りの街並みが広がり、賑やかな市場から漂う香ばしい匂いが馬車の中まで届いてくる。

広場には多くの人が集い、路地裏では子供たちがはしゃぎながら走り回っている。


「着いたね、リリス!」

カルヴァンは目を輝かせ、広がる景色に見入る。


「ええ、本当に素敵な場所ね」

リリスも感慨深げに頷く。


「これからいろんなことを一緒に体験していきましょう。王都での生活が楽しみね」と、アイリスは満面の笑みを浮かべて言った。


こうして、カルヴァン、リリス、そしてアイリスの新たな冒険が、今まさに幕を開けたのだった。


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