第17話 閑話休題ー1

夕暮れ時、カルン村の酒場にて……


初めてエールを口にしたカルヴァンは、その独特の苦味に馴染めず、別のお酒を探していた。

リリスが先に寝てしまったこともあり、カルヴァンは一人で酒場へと向かい、他の種類のエールやワイン、ブランデーに手を出してみたものの、どれもイマイチ。


「うーん…これじゃ、エールと変わらないな。もっと美味しいお酒ってないのかな…」


そんな時、酒場の主人がすすめてくれた蜂蜜酒。

黄金色の液体を口に含むと、甘さと香りが広がり、カルヴァンは目を輝かせた。


「これは……! 素晴らしいっ!」


その美味しさに感動したカルヴァンは、何杯もおかわりしてすっかり上機嫌に。

そんな彼に興味を示したのは、近くで飲んでいた年上の女性たちだった。


「ねえ?君、楽しそうね?」

微笑みを浮かべて声をかけると、他の女性たちも彼の周りに集まってきた。


「ふふ、若くて可愛いわね。ねぇ、私たちと一緒に飲まない?」


優しく誘われ、カルヴァンは照れながらも顔を赤らめ、女性たちの柔らかな笑顔にドキドキしてしまう。


「大丈夫よ、緊張しないで。ね、私達の部屋でゆっくりお酒でも飲み直さない?」


甘い声にドキリとしながら、カルヴァンの心臓はバクバクと跳ね上がり、鼻の下がぐんぐんと伸びていくのを感じる。


(えっ…ぼ、僕が、女性の部屋に誘われるなんて…!)


そんな興奮と混乱の中、カルヴァンはそのまま身を任せかけていた。

しかしその瞬間、背後に冷やりとする視線を感じ、振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたリリスが立っていた。

だが、その笑顔の裏には恐ろしいほどの殺気が漂っていた。


「カールヴァン♡」

甘く響く声に、カルヴァンの背筋は一瞬で凍りつく。


「あ、あの…リ、リリス、これは…そ、その…!」

アワアワしながら何とか言い訳を考えるカルヴァン。

「ぼ、僕、村の人たちと…こ、こう、交流を深めようと思って…」


リリスはじっと彼を見つめ、冷ややかな笑みを浮かべて呟いた。

「ふぅん、“交流”ね?それでそんなに鼻の下を伸ばして……いったいどんな交流をしようとしていたのかしら?」


その声の柔らかさとは裏腹に、瞳には嫉妬と怒りが渦巻いている。

カルヴァンは恐怖で震えつつも、言い訳の余地が見当たらない。


リリスはさらに冷たく続ける。

「この前、言ったわよね?次にスケベ心を出したら、お仕置きするって」


その言葉に、カルヴァンは恐怖でビクッとするが、どこかでほんの少しだけ「お仕置き」に期待する自分もいて、複雑な気持ちが交錯する。


「か、勘弁してよ、リリス! 本当に何もしてないんだって!」

必死に弁解しつつも、つい期待の目をちらりと彼女に向けてしまうカルヴァン。


リリスはその視線を見逃さず、さらに鋭い目で彼をじっと見つめ、「本当に、何もしていないのかしら?」と冷ややかに問い詰める。

その視線に耐えきれず、カルヴァンはさらに縮こまる。


「答えなさい、カルヴァン。逃げても無駄よ」


リリスはカルヴァンの腕を掴み、そのまま彼を引きずるようにして宿へと向かう。

逆らうことができず、ただ従うしかないカルヴァン。


部屋に戻ると、カルヴァンはなんとか言い訳を試みるものの、リリスの鋭い視線に一言も発せられなかった。その夜、リリスの冷たい眼差しが彼を一晩中見張り、カルヴァンは静かに反省せざるを得なかった。


「本当に何もしてないんだってば……」


カルヴァンにとって、反省の一夜は長く、そして忘れがたいものとなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る