第14話 囚われし村人と忍び寄る影

夜の帳が降りる中、リリスは倒れたカルヴァンの隣に座り、懸命に看病を続けていた。

冷えた布を彼の額にそっと当て、安らかな寝顔を見つめると、胸が少しだけ締め付けられる。


「本当に…無事でいてくれてよかった…」

小さな声で呟いたが、自分に言い聞かせるように首を小さく振った。

いくら危険な目に遭っても、自分はただ冷静にカルヴァンを守る存在であるべき――

それ以上の理由は不要なはず。

だが、膨れ上がる不安と恐れは、思うように抑えきれない。


彼女は夜明けまでカルヴァンの手をそっと握りしめ、その場を離れずに静かに見守り続けた。

彼の無事をひたすらに祈りながら。


やがて翌朝、カルヴァンはゆっくりと目を覚ました。

ぼんやりとした視界の中、リリスの真剣な眼差しが映り込む。

「…リリス、ありがとう。助けてくれて、本当に感謝してる」


まだ弱々しい声ながら、彼は心からの感謝を伝えた。

リリスは一瞬驚いたように見えたが、すぐにそっけなく「…別に気にしないで。あんたが無事ならそれでいいの」と返した。けれども、彼女の頬がほんのり赤らむのをカルヴァンは見逃さなかった。


「けど、まだ安心するには早いわ。村の人たちは行方不明のままだもの。少し体力が戻ったら、一緒に探しに行くわよね?」

そう言いつつ、彼女はそっと彼の手を離した。


カルヴァンは力強く頷き、昨夜の激戦を経て、少しずつマナを制御できるようになってきた自分の成長を感じ取っていた。

「今度こそ、リリスや村の人々を守れる力を持ちたい」

――彼はそう強く誓い、再び彼女の目を見つめ返した。


その後、体力を回復させた二人は再び村人たちの救出計画を立て、カルヴァンが周囲を見渡しながら「この辺りには、何か妙な違和感がある」と警戒すると、リリスも「ええ、きっと何か見落としているはず。もう一度、じっくり調べてみましょう」と返し、探索を始めた。


古びた墓石が並ぶ中、風が木々を揺らし、静寂があたりを包む。

彼らはさらに奥へと進み、やがて朽ち果てた古い家屋が姿を現した。


「この場所をもっと詳しく調べてみよう」とカルヴァンが慎重に提案すると、リリスも「きっとここに手がかりがあるわ」と頷き、二人は警戒しながら家屋に近づいた。


家屋の中は薄暗く、埃とカビの臭いが漂っている。リリスは少し顔をしかめながらも、カルヴァンと共に慎重に調べていった。

「気を付けてね」とリリスが彼に声をかけると、カルヴァンは微笑んで頷き、さらに奥の部屋へと進んだ。


そこには、鎖に繋がれ、恐怖と疲労で座り込む村人たちがいた。「もう大丈夫です。今、助けますから」とカルヴァンが声をかけ、リリスも安堵の表情で次々と村人たちの鎖を解いていった。


村に戻る道すがら、カルヴァンはふと足を止め、疑問を口にした。

「そもそも、あの黒ずくめの男はなんで村人を誘拐したんだろう?魔物を使役するのに必要だったとか?」


リリスは少し考え込むようにしてから、慎重に言葉を選びつつ返答した。

「それもあるかもしれないけど…あの男、ただ魔物を使役しているだけじゃない気がするの」


「どういうこと?」とカルヴァンが促すと、リリスは眉をひそめたまま説明を続けた。


「フロストサーンジュや墓守の亡霊アビサルウォーカーの手の甲に黒い紋章がある魔物を使役していたのは、きっと深淵の森の魔女エレナに対する警戒の表れよ。でも 、それだけじゃない……村人を生贄に悪魔を召喚しようとしていた可能性もある」


「悪魔召喚…?」

カルヴァンは驚いた表情で彼女を見つめる。


リリスは不安げな表情を浮かべながら、静かに視線を遠くへ向けた。

「もしこの村で悪魔が召喚されれば、疑いの目は間違いなく深淵の森の魔女…エレナに向くわ。でも…」


「でも…?」

カルヴァンが聞き返すと、リリスは少し表情を曇らせた。


「彼はエレナが死んでいることを知らなかったようだった。だから、彼があんたがその力を受け継いだと知って、これからカルヴァン、あんたが狙われる可能性も考えられる。彼にとってエレナの力は、邪魔にもなる強大な力だもの」


カルヴァンはその言葉に思わず息を飲み、リリスの顔を見つめた。

「僕が…」


「ええ、だから覚悟しておきなさい。あの男はただの魔法使いじゃない、背後にはもっと強大な存在が控えているかもしれない…」とリリスは静かに言い放ち、その目には確かな決意と不安が入り混じっていた。


二人はそれぞれの心にこの警戒を深く刻み、共に新たな試練に備えながら村への道を進んでいった。


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