第13話 黒衣の男と亡霊の墓標

夜の帳が墓地を覆い、月の光が墓石の影を長く引きずっている。

冷たい風が木々を揺らし、不気味な静けさが墓地を包み込んでいた。


カルヴァンとリリスはその静寂を切り裂くように、手にしたランタンの灯りを頼りに墓地を進んでいた。


「ここが墓地か…何か手がかりが見つかるといいけど」

カルヴァンが囁くように呟く。


リリスが小声で応えた。

「気をつけて、カルヴァン。この時間に墓地なんて、何が出てくるかわからないわよ」


昼間、村人から聞いた奇妙な噂――

村人が数人行方不明になり、村外れの墓地で不審な影が見えたという話。

その真相を確かめるため、二人は夜の墓地へと足を踏み入れたのだった。


どこからか低いうなり声が響き渡る。

リリスが耳を澄ませ、暗がりを指差した。


「…聞こえた?あっちから何か声がする」


「うん、行ってみよう」

カルヴァンが頷き、二人は声のする方へと進んでいった。


すると、墓石の間から骸骨のような影がゆっくりと浮かび上がった。

暗く赤い光が眼窩に宿る、「墓守の亡霊アビサルウォーカー」だった。

二人を冷たく見つめ、口を開けると不気味な声で唸りながら近づいてくる。


「墓守の亡霊アビサルウォーカー…!」カルヴァンが息を呑んだ瞬間、亡霊が骨ばった腕を持ち上げ、無数の骨片がカルヴァンたちめがけて飛んできた。


「カルヴァン、避けて!」

リリスが叫び、咄嗟に「ダークネス・スラッシュ!」と闇の刃を放つ。

黒い閃光が亡霊の体を切り裂くが、亡霊はかすかに揺らめいただけで、全く動じる様子を見せない。


亡霊が突進してくる。

腐臭が漂う中、カルヴァンは歯を食いしばり、プロテクション・シールドを展開して応戦した。


「ファイアボール!」

彼が火属性魔術を放つと、墓地に一瞬炎が煌めき、亡霊の体が揺らぐ。

しかし、亡霊は冷ややかな視線をカルヴァンに向けたまま、再び襲いかかってくる。


「しぶとい奴ね…!」

リリスが息を荒げながら闇の魔術を繰り出すが、亡霊の動きはまるで止まる気配がない。


そのとき、墓地の闇の中から異様な気配が二人を包み込んだ。

ふと目を向けると、地面を引きずるような黒いローブを身にまとい、フードを深く被った男がゆっくりと近づいてきた。

仮面で覆われた顔からは表情が読み取れないが、その姿はただならぬ雰囲気を漂わせている。


低く、不快感を覚えるような声で男が言葉を発した。

「ここで何をしている…?」


カルヴァンは一瞬ひるみながらも、なんとか冷静を装って答えた。

「僕たちはただの旅人です。あなたこそ、ここで何をしているんですか?」


黒ずくめの男は返事をせず、冷たい視線で二人をじっと見つめていた。

すると、男の肩に乗っていた不気味な魔物――

血のように赤い瞳を持つ大きな黒カラスが甲高い声で鳴き、カルヴァンたちに向かって飛びかかってきた。


「カルヴァン、下がって!」

リリスが魔術で魔物の攻撃を防ぐ。


「ありがとう、リリス!」

カルヴァンは息を整え、必死に応戦を続けたが、相手の動きは素早く、攻撃がことごとくかわされる。


「ふん…小僧が魔術を使うとはな」

黒ずくめの男が不気味に笑い、手を挙げたかと思うと、強烈な雷がカルヴァンめがけて一直線に放たれた。

「ライトニング・ストライク!」


「くっ…!」

カルヴァンは必死に避けるが、雷の余波が彼の体に痺れるような痛みを走らせた。


「終わりだ」

男がさらに強力な魔法を放とうと構える。


「エレメンタル・フレア!」

絶体絶命の中で、カルヴァンは精霊魔術を発動した。

体が光に包まれ、周囲に精霊たちが現れると、燃え上がるような火柱が立ち上り、黒ずくめの男を貫こうとした。


「な…!」

黒ずくめの男が驚愕の表情を見せる。

炎が迫り、咄嗟に男は魔物を盾にしてその場から飛び退いた。


「待て、逃げるな!」

カルヴァンは叫ぶが、精霊魔術の反動で体に限界が訪れ、意識がぼやけ始める。


「深淵の森の魔女が死に、その力を継ぐ者が現れたか…興味深い」

冷たい声を残し、男は闇に消えていった。


リリスはすぐに倒れたカルヴァンのもとに駆け寄り、「カルヴァン!しっかりして!」と必死に彼を抱きかかえる。彼女は彼を抱え、暗い墓地からそっと去っていくのだった。

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