第12話 平穏な村を包む暗き気配
翌朝、カルヴァンとリリスは朝日が降り注ぐ中、カルン村の市場へと出かけた。
村の通りには活気が溢れ、人々が行き交いながら楽しげに買い物をしている。
朝の清々しい空気と賑やかな風景が、まるで小さな祝祭のようだ。
「なんだか、ここにいると気持ちがほっとするね」
カルヴァンが柔らかく笑みをこぼすと、リリスも穏やかに頷いた。
「そうね、こんな平和な場所でしばらくのんびりするのも悪くないわ」
市場には色とりどりの野菜や果物が並んでいる。
カルヴァンは果物屋でリンゴを一つ手に取り、リリスと分け合ってかじった。
「甘くて美味しいね」
カルヴァンが嬉しそうに言うと、リリスも満足げに頷き、「ほんと、新鮮で美味しいわ」と微笑んだ。
ふたりが市場を楽しんでいると、ふとアクセサリー屋の前で立ち止まる。
リリスが興味深そうに並べられたアクセサリーを眺めているのに気づき、カルヴァンはその視線を追って赤いガラス玉のネックレスに目を留めた。
(リリスがこれを身につけたら、どれだけ似合うだろうか…)
カルヴァンは密かに思いを巡らせ、こっそりそのネックレスを購入することを決めた。
そんなふたりが広場へと向かって歩いていると、突風が吹き抜け、前を歩いていた女性のスカートがふわりとめくれ上がった。
カルヴァンはつい目をそちらに向けてしまい、思わず「青か…」とつぶやいてしまう。
しかし、その反応はすぐ隣にいるリリスにしっかりと見られていた。
気がついたときには、リリスの冷たい指が彼の腕に絡みつき、カルヴァンはハッとして振り向くと、リリスが静かな微笑を浮かべていたが、その瞳には怒りの光が宿っている。
「カルヴァン、今…どこを見てたのかしら?」
リリスが彼の耳元に顔を寄せ、囁くような声を出す。
甘く誘惑するかのような声色に、カルヴァンの胸がドキリと跳ねたが、その瞳の冷たさに一瞬で現実に引き戻される。
「えっ、いや、あの…風で…たまたま偶然見ちゃっただけで!」
カルヴァンは慌てて弁解を始めたが、リリスの視線がさらに鋭さを増す。
「ふ〜ん、たまたま、ね?」
リリスは囁きながらさらに耳元へと顔を寄せる。
「デート気分で歩いてるって思ってたのに、よそ見なんていい度胸してるじゃない?」
リリスの甘い声色と冷たい怒りが入り混じり、カルヴァンは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「ご、ごめん、リリス!もう絶対、絶対見ないから!」
リリスは微笑を浮かべながら、ゆっくりとカルヴァンの耳元で囁いた。
「そう…でも、次に同じことをしたら、悪魔の女王の“お仕置き”がどんなものなのか…教えてあげるわ」
その言葉と共に、リリスの指がカルヴァンの腕を這うように滑り、彼の肌に冷たい感触が伝わる。
カルヴァンはリリスの脅しに怯えつつも、なぜか胸が高鳴っている自分に気づいてしまい、心が乱れる。
(まずい…脅されてるのに、なんでこんなにドキドキしてるんだ…?)
リリスの視線に圧倒されながらも、どこか新しい世界への扉が開いたような感覚に陥り、カルヴァンは複雑な気持ちで彼女を見つめた。
しかし、リリスはその様子を冷ややかに眺めながら、微かに笑みを浮かべている。
「じゃあ、気をつけることね」
あっさりと手を離して歩き出したリリスを見送りながら、カルヴァンは二度とよそ見をしないと固く心に誓った。
市場を散策していたカルヴァンとリリスは、村の中央で活気づく人々に気づく。
どうやら村人たちが何かの準備をしているようだ。
「こんにちは、これは何の準備をしているんですか?」
カルヴァンが村人に尋ねると、村人が朗らかに答えた。
「もうすぐ星祭りがあるんだよ。村で一番大切な行事さ。この夜空に輝く星々をたたえるんだ」
「星祭り…なんだか素敵なお祭りね!」
リリスが目を輝かせる。
「せっかくだし、数日滞在して星祭りに参加しようよ。手伝えることがあればやるから」
カルヴァンが微笑んで言うと、村人も喜んで二人を歓迎し、準備を手伝ってくれるようお願いする。
こうして、星祭りの準備に自然と関わることになり、カルヴァンとリリスが村人たちと交流しながら準備を進めていく。
星祭りの準備を手伝い始めたふたり。
リリスは装飾を次々と飾り付け、カルヴァンもそのサポートに励む。
しかし、村人から聞いたある噂が二人の耳に入る。
「実は最近、村人が数人行方不明になっていてね…それに、村外れの墓地で不審な物音が聞こえるという噂もあるんだ」
カルヴァンとリリスは互いに顔を見合わせ、不安な気持ちが広がった。
「それは心配ですね。何かお力になれることがあれば…」
カルヴァンが申し出ると、村人は感謝の表情で頷いた。
「もし、君たちが村外れの墓地の様子を見てくれるなら助かる。誰も行きたがらなくてね…」
村人の不安げな様子に、カルヴァンとリリスは調査を決意し、夕暮れの市場を後に墓地へと向かう準備を整えた。
その夜、カルヴァンとリリスは手にランタンを灯し、村のはずれにある墓地へと向かう。
辺りはすっかり静まり返り、不気味な冷気が肌を刺すようだ。
「ここが噂の墓地か…」
カルヴァンが少し怯えた声で呟く。
リリスは一歩前に進み、落ち着いた表情で墓地の様子を見回した。
「心配しなくていいわ、カルヴァン。ここは私がいる限り、大丈夫よ」
その声には、冷静で圧倒的な威圧感が宿っていた。カルヴァンの後ろで、リリスが静かに纏う冷たいオーラに、思わず背筋が震える。
しかし、彼女が放つその力には頼もしさも感じられる。
一方、墓地に広がる異様な雰囲気に気を張るカルヴァンと異なり、リリスの冷静な姿は周囲の空気さえ支配しているかのようだった。
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