第5話 魔女が遺した切なき願い

深淵の森に響く夜の静寂。

この森で、長い間ひとりで生きてきた私には、静寂はいつしか親しい友のような存在になっていた。

魔女として人々から恐れられ、誤解され、孤独な人生を受け入れようと決めたはずだったのに──

そんな私の元に現れたのが、あの不思議な縁で結ばれた転生してきた少年、カルヴァンだった。


彼は、初めて抱いたときはまだ小さな赤ん坊で頼りなげだった。

それがいつしか、私にとってかけがえのない

「家族」になった。

真面目で純粋な彼は、魔術を教えると目を輝かせて、ひたむきに学び続けた。

その真剣な姿に、私も心が温かくなるのを感じていた。


そして、あの少し生意気な悪魔の少女リリスが加わってからは、私たちの家はさらに賑やかになった。リリスがカルヴァンをからかい、それに必死に応じる二人の様子は、まるで本当の姉弟のよう。

そんなやりとりを眺めながら、思わず微笑んでしまうことも増えた。

「本当に家族みたいね」──

そう感じる日々が、私にとっても幸せだった。


けれども私は知っている。

この穏やかな日々が、ずっと続くわけではないことを。


私は自分の体に流れるマナが、日ごとに弱まっているのを感じていた。

寿命が、そろそろ尽きようとしていることも。

そして、カルヴァンとリリスに、別れを告げる時が近づいていることも。


このままずっと、二人と一緒に穏やかな日々を過ごせればいいのに──

そんな思いが胸の奥に芽生えていた。

だけど、彼らの未来を思えばこそ、私は決意を揺るがせるわけにはいかなかった。


ある夜、二人が眠りについた後、私は静かに机に向かい、手紙を書き始める。

カルヴァンの寝顔を思い浮かべながら、震える手でペンを握りしめ、一文字一文字、彼への思いを綴っていく。


(カルヴァン、私はあなたに全てを託すわ……)


心の奥でそうつぶやきながら、慎重に言葉を選んでいく。


「私がいなくなった後も、あなたは決して一人じゃない。リリスがそばにいてくれるし、私もきっと、あなたの心の中にいる」


何度も涙が滲んで、紙にぽたりと落ちる。

拭っても、また涙がこぼれてしまう。

それでも、私はペンを止めることなく、カルヴァンの未来のために言葉を紡ぎ続けた。


「この手紙が、あなたの未来への光となりますように」


カルヴァンが私の力を受け継ぎ、未来への一歩を踏み出すとき、彼の胸に少しでも私の想いが寄り添えるように──

そう祈りながら、私は夜の静けさに包まれて手紙を書き終えた。


エレナの心には、深い愛と、彼らの未来への願いが静かに満ちていた。


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