第9話 あめりかへ
もぐら男のおかげで、存外簡単に、わたしはあめりかにわたることができた。
マクシミリアン亭で出会ったモノクル男に、黒い輝きを放つ一本足の丸い生物を渡すことで、話をつけてくれたのだ。
丸い生物について聞くと――
「お前の中に眠る何か大切なモノだ」
と、言っていたので、益々気になったのだが、それ以上は怖くて聞けなかった。
修行が足りないと、わたしは反省した。
モノクル男から紙切れを受け取ったもぐら男は、わたしの手を引いて、昏い廊下の分岐をすさまじい速さで駆けて行った。
そうして、わたしは昏い廊下の先にあるやはり暗い港から貨物船に乗ったのだった。
長いようで短い航海のあと、わたしはあめりかの人となった。
港に降り立つ。
館の中でも、あめりかはやはり広かった。
「ここは夏う~。ずっと夏さぁ~。人を幸せにしてぇ~狂わせるのさぁ~」
廊下の壁は先が見えぬほどで、天井にはサングラスをかけた太陽が、低音で常夏をたたえる曲を歌っていた。
「F言語。F言語!」
「ニューヨーク市警! 海兵隊! テロ! 銃乱射!」
「フェンタニル! カルテル! カルテル!」
どこまでも続く廊下の中の道路には、白人と黒人とヒスパニックが、よくわからない言葉をがなり立てていた。
アジア系もいたが、無視されながら黙々と歩いたり商売をしたりして、普通に暮らしていた。
誰もが、きっと幸せなのだ。
間違いない。ここはあめりかだ。
わたしは、廊下のあめりかで、なんだか楽しくなっていた。
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