第6話 誘惑の中
昏い廊下は続いている。
続きすぎている。
西のマクシミリアン亭へ進む廊下の道のりは、なかなかに過酷だった。
わたしは、数時間も歩いていた。
途中、善きアリと、さほど悪いわけでもない蛇から、わずかながら水と食料を分けてもらえなければ、倒れていたかもしれない。
親切な声は、すでにいない。出張だと、壁新聞で知ったのは、つい一時間ほど前のことだ。
そうすると、廊下の左右にたまに現れるようになった客室の扉とか、障子とか中からすすり泣きの聞こえる〝staff lonely〟と書かれたやけに立派な両開きの扉とかを開けて「ちょっと休ませていただけませんか」といいたくなってしまう。
短期間なら住民票もいらないだろうから。
「休んでいくといいんじゃないか」
「前に進むばかりが人生かな?」
「睡眠時間は幸福時間さ」
周囲の掛け軸や、廊下の隙間や穴から、わたしの欲求を肯定する声が発せられていた。
だが、できない。今休めば、体をこの館に取り込まれてしまう。
かといって、不意に壁が崩れてできる左右の通路にも入れない。
右に曲がれば北へ迎えるが、私の行きたい北をは限らないし、遠回りとなる左の廊下へは行きたくなかった。
限界まで行こう。そう思った頃になって、昏い廊下の先に、わたしは明かりを見つけた。
マクシミリアン亭かどうかは保証はないが、わたしは都合の良さを信じて、歩みを速めた。
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