第5話 西へ

「パスポートは、ないですね」



 わたしは、親切な声の問いに、返事をしつつ困ってしまった。



 パスポートなんてないし、いっそ召喚しようか?



 しかし、月の光も墓場の土もカラスの目玉もない。召喚の成功率は低くなってしまうだろう。



 わたしがパスポートの召喚について考えていたところ、親切な声が丁寧な解説を入れてくれる。



「なら、奪い取るか買うか拾うか、あるいは、かもらうかしかないでしょう」



「おすすめはありますか?」



「買うのがよいでしょう。今なら入国管理局風の場所で、安く買えるはずです」



「お金は、あまりないのです」



「おいくらですか」



「一貫文です」



 わたしは、正直に言った。



「足りませんね。ならば、奪いますか?」



 親切な声に、物騒な響きが加わった。



「それは、わたしの趣味ではありませんね。あとわたしは、臆病で非力です」



「ならば、もらうしかありませんね。西に行くとよいでしょう」



「よくわからないけど、わかりました」



 わたしは、親切な人の助言に従うことにした。



 なぜなら親切な人のいうことなのだ。



 きっと、間違いはあるまい。



 わたしは、西へ向かった。




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