第4話 指向の便利
「線、引いておくからな」
老人は親切な性質らしく、静かな声で告げてくれた。
予想通りに、老人は線を引き始めてくれた。
「ありがとうございます」
わたしの礼を受けた老人は、会釈をしてから廊下に白線を引き始めた。
老人の小さな背中が遠ざかっていく様子を見たわたしは、頼もしさを持って見送った。
わたしは、竹製の長椅子に座って、ほうじ茶を飲みあんころ餅を楽しんだ。
老人が北へ行ってから数分後、わたしは長椅子を立った。
見事な白線が引かれていて、わたしは心強さを感じながら再び歩みを進めた。
白線に沿って進むと、数分でT字路にぶつかった。
白線は、壁に当たってから東へ進路を取っていた。
西を見ると赤い矢印の下に〝マクシミリアン亭方面〟と
東側といえば〝あめりか行き〟
それぞれ書かれていた。
東西どちらへ行っても北へ行ける曲がり角があるという保証はない。
ならば〝あめりか〟だろう。楽しそうだし。
わたしは、東の廊下を行くことにした。
曲がる寸前になって――
「パスポートはお持ちですか?」
背後から親切な声が、有益な忠告をしてくれた。
クニに入るならパスポート、あの羽の生えた木像が必要だと、わたしはすっかり忘れていた。
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