第3話 老人と線

 わたしが廊下を進みだしてから三分ほどたった。


 

 まだ先は見えない。



 左右どちらを見ても扉も襖もない。



 寒々とした廊下には、見慣れぬ文字の書かれた掛け軸や手足の多い日本人形の他には、間接照明があるだけだった。



 緊張のせいか、もわたしはう疲れ時始めていた。

 


 と。タイミングよく――



「お茶でもどうぞ」



 暗闇の先から、お茶とあんころ餅が乗ったお盆を持った腕が、差し出された。



 ほうじ茶の良いにおいがする。あんころ餅も魅力的だ。



 いつのまにか竹製の長椅子も用意されていた。



 かたじけなさを嚙み締めつつ、長椅子に座る。



「ありがとうございます」



「横、通るよ」



 わたしがお礼を言って、湯呑に手を伸ばしたところで、しわがれた声がかけられた。



 わたしの真横に、赤い白線引きの道具(ライン引きとかいうらしい)を持った白髪の老人が立っていた。



 白色の多い目が、ゆったりとして光をたたえた、わたしを見上げていた。



 ははあ、引いてくれるつもりだな。



 わたしは確信し、笑顔で会釈をした。



 線が引かれるのは、心強い。



 わたしの弱さかからくる安心感かもしれない。それでもわたしには、ありがたかった。

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