第2話 廊下の先

 廃屋の内部は、玄関と違って、綺麗すぎるほどに綺麗だ。



 埃のにおいもしない。ただ寒々しいだけだった。



 招き入れてくれた声の主は、当たり前のように見当たらなかった。



 わたしは、玄関の先、北へ目を向ける。廃屋というよりも新人デザイナーが設計した旅館のような、綺麗な木目調の廊下が目に入った。



 間接照明に照らされた廊下は、数メートル先なら視認できるが、遠くは真っ暗だ。



 昏い廊下の先からは、フクロウが鳴くような声と、何か大きなものを引きずる音が聞こえた。


 

 わたしは、行ってみることにした。



 何せ今のわたしは、北へ行くしかないのだ。



「どうぞお気をつけて」



「行ってきます」


 

 わたしは、平坦な声に送られて、廊下の奥へ足を踏み出しだした。



 良くないことか奇妙なことが起こりそうな予感がするが、わたしに躊躇も恐怖もなかった。

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