散策奇

呉万層

第1話 まだ明るい場所から

 気が付くとわたしは、辻に立っていた。



 見上げれば空は青く、雲は少ない。太陽はサンサンで、風はなかった。



 見渡せば、右手に漆喰の長い塀が続き、左手には窮屈な竹藪、真後ろには、青い空の下の中途半端な都会の建物群、真正面には平屋の廃屋があった。



 それはそれとして、ここはどこで、わたしはだれだろうか。気にすべきことだが、なぜだか気にならなかった。



 自分が何者なのかは、わからない。だが、これからどうすればいいのか、実は知っていた。



 北へ向かえばいいのだ。



 廃屋に目を向ける。崩れた玄関は開いていいて、ほの暗かった。



 わたしは、廃屋の玄関に入った。



「ごめんください」



「どうぞ」



 姿を見せずに、誰かが平坦な声で挨拶を返してくれた。



 入ると何か良くないことや怖いことが起こりそうだ。それでもわたしは、北へ向かうしかないので、歩みを止めずに、土間へ侵入した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る