第3章第1話: 「真実の泉のリアンナ」

「ようやく到着ね!」リオナが疲れた表情で声を上げる。見渡せば、そこにはかつて公爵から聞いた「真実の泉」が静かに湛えられていた。青白くきらめく水面が神秘的に揺らめき、周囲の静寂さが一層不気味な雰囲気を醸し出している。


だが、よく見ると泉のそばに誰か立っている。鮮やかな服を着こなし、どこか余裕のある態度で佇んでいるその人物に、エリオは思わず口を開いた。


「えっと、おばさん……?」


その瞬間、空中でヒールがきらりと光ったかと思うと、エリオの顔面に見事に命中する。「ぎゃっ!」と驚きの声をあげ、エリオは痛みに顔をしかめた。


「坊や、言葉には気をつけなさい。お姉さんよ」と、その人物が涼しい顔で言い放った。リオナたちも、一瞬ひるんで声を失う。


リオナはおそるおそる尋ねた。「ここにあるのは、真実の泉で間違いないのかしら?」


その人物は、少しニヤリとしながらうなずき、「そうよ。そして私はこの泉、リアンナでもあるのよ」と言った。


「ドユコト?」と困惑した表情でリオナが尋ねると、隣のミレイが腕を組んで小声で説明した。「私も噂でしか聞いたことがないんだけど、この泉には“意識”が宿ってるらしいのよ」


エリオは顔面にくっきりとヒールの形が残ったまま、手に拾ったヒールを持ってリアンナに差し出し、おずおずと聞いた。「お、おねーさんが僕を人間に戻してくれるんですね?」


リアンナはヒールを受け取ると、にやりと笑って頭を軽く撫でた。「お利口さんの坊やね。ただし、勘違いしないでね。私がやるのは“真実を映し出す”だけなの」


リオナは少し眉をひそめて、「で?エリオは人間に戻れそうなのかしら?」と、あきれ顔で尋ねた。


リアンナは無造作に肩をすくめ、「さあ?どうかしらね」とあっけらかんと答える。


「そんな~」と情けない声を出すエリオが、半泣きの表情で立ち尽くす。


「慌てないの、坊や。結局のところ、それはあなた次第よ」とリアンナは言い、意味ありげな笑みを浮かべた。


リオナはリアンナの曖昧な態度に不信感を抱き、ミレイの方を向いて小声で話しかける。「なんか、雲行き怪しくない?」


ミレイもうなずき、「そ、そうね。つまり、エリオを人間に戻す方法は、リアンナにもわからないってことなのね?」と確認するように尋ねる。


「そうよ。公爵にも言ったけど、私は預言者じゃないの。あくまで“真実”を映し出すだけなのよ」と、リアンナは余裕たっぷりに答えた。


ルビィが大きく伸びをしながら、「なんだ、ただの役立たずじゃん!解散解散!」と呆れたように言い放つ。


ミレイも、「そだね〜」と投げやりに同意し、エリオを見て、「諦めるしかないわよ、エリオ」


「えー!いやだよ〜!困るよ〜!」と、半泣きのエリオがさらにしがみつくようにして、リアンナを見つめた。


リオナも腕を組み、「本当にここまで来て損したわ」と大げさにため息をつく。


しかし、リアンナはそんな一行を静かに見つめ、ふと深刻な表情で口を開いた。「待ちなさい。…一つ、真実を教えてあげるわ」


「えっ?」一行は足を止め、リアンナに視線を戻す。


「このドラゴンの坊や、そのまま放っておくと、この世界を終わらせる存在になるわよ」


その言葉が響いた瞬間、一行は顔を見合わせ、「い、いま何て……?」と口々に驚く声を上げた。


エリオも慌てて、「ぼ、僕が世界を終わらせるなんて、そ、そんなことあるわけ……」と顔を青ざめさせた。


リアンナは肩をすくめ、「まあ、私が“真実”を映すだけなのは確かだけどね。このドラゴンの姿が続けば、どんな危険な力を秘めているかまでは分からない。あなたが持つ“力”がなんなのか明らかになるまでは、何が起こるか予測不可能よ」と冷ややかに言い放った。


リオナはその言葉に青ざめながらも、エリオの腕をつかんで必死に元気づける。「エリオ、もう逃げるわけにはいかないわよ。なんとしても、真実を知って人間に戻るのよ!」


ルビィも、「ふふっ、なんだか面白い展開になってきたじゃん!もっと早く言ってくれれば、やる気が出たのにね」とニヤニヤしながら面白がっている。


一方、ミレイは腕を組み、ため息をつきながら、「はぁ…面倒ごとがまた増えたわね」とぼやく。


リアンナは一行の様子を不安そうに眺め、「この子たち、真実を言ったらどう思うかしら」と思うのであった。

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