第2章第11話: 「いでよ!お掃除くん!」

謎の紳士が、リオナの怒りの叫びに応えるように、シルクハットをかぶり直し、両手を広げながら威厳たっぷりに言い放った。


「いでよ!お掃除くん!」


その瞬間、広間の奥から大きな音が鳴り響き、一行の視線は一斉にその方向へ向けられた。金属の車輪がごろごろと動く音が近づいてきて、巨大な物体がゆっくりと姿を現した。


その姿を見たリオナたちは、思わず目を見張った。現れたのは高さ3メートルほどの、三輪の巨大な台車に載った円すい型の体を持つ機械だった。その上には球体の頭が載っていて、まるで巨大なバドミントンのシャトルのような形をしている。さらに、体の両側からは手のようなものが突き出ており、先にはほうきが取り付けられていた。


「な、なにあれ!?あんな大きな機械が動いてるなんて!」リオナは驚きと戸惑いの入り混じった表情で叫んだ。


エリオもその巨大な姿に圧倒され、「えぇ!?怖すぎるよ、あんなの!」と後ずさりした。


「エリオ!あんたの出番よ、なんとかしなさい!」リオナがエリオの肩をぐいっと押し出して言ったが、エリオは首を激しく振りながら後ずさりする。


「無理無理!あんなのどうやって倒せるんだよ!」


リオナは苛立ちを募らせ、エリオを再び前に押し出す。「同じくらいの大きさなんだから、あんたしかいないでしょ!」


そのやり取りを面白そうに眺めながら、紳士は口元に冷笑を浮かべた。


「何をやっているのかね、野蛮な者たちは。さあ、出て行きたまえ。然もなくば……」


一行が動揺している間にも、「お掃除くん」は無機質な目(と言ってもライトが点滅するだけだが)を光らせながら、ゴロゴロと大きな音を立てて彼らに迫ってくる。


「エリオ、今よ!今しかないの!行け!」リオナが叫ぶが、エリオはひたすら半泣きの表情で「無理だってば!あんな大きなもの、勝てるわけないじゃないか!」と必死に訴えた。


するとルビィがさっとタバコを取り出し、軽く肩をすくめながら、「これ以上ワタワタしてもしょうがない。とりあえず外に出ようぜ」と提案した。


「え、ええ?逃げるの?」リオナは一瞬戸惑ったが、迫るお掃除くんを見て覚悟を決め、「しょうがない、退散!」と叫んで外に向かって走り出した。


一行は慌てて玄関を通り抜け、屋敷の外へと転がり出るように飛び出した。外に出た瞬間、リオナは息を切らしながら「はぁ、はぁ……なんなの、あの変な機械は!?」と叫んだ。


ミレイは少し落ち着いた表情で肩をすくめ、「あれはね、公爵の『お掃除くん』よ。あの人、いろんな変な機械を研究してるんだから」


「変な機械って、なんであんなのが屋敷の中にあるわけ?」リオナはますます不満そうにミレイを見つめた。


ルビィもタバコをくわえながら、「しかも、ほうきがついてるだけで、どう見ても掃除には不向きだろ、あれ」と呆れ顔で呟いた。


「まあ、それはさておき、どうするの?これから?」ルビィが問いかける。


リオナは息を整え、「どーもこーも、ここまで来たからには正面突破するしかないでしょ!行くわよ、エリオ!」


しかし、エリオは震えたまま、「いやだよ!無理だよ、リオナ!」と半泣きで必死にリオナの説得を拒否していた。


「しっかりしなさいよ!あんたのためでしょうが!」リオナは再びエリオを勇気づけようとするが、その様子を見ていたミレイが「まあまあ」と仲裁に入った。


「ちょっと待ってて、私が交渉してくるわ」そう言ってミレイは玄関に向かい、屋敷の扉を少しだけ開けて中に入っていった。しばらくすると、何やら中で話している声が聞こえてくるが、何を言っているのかまでは聞き取れない。


リオナとエリオ、そしてルビィが不安そうに待っていると、やがてミレイが戻ってきた。彼女の顔には少し困惑の色が浮かんでいる。


「どうだったの?」リオナが急かすように尋ねると、ミレイは肩をすくめながら言った。


「どうやら、公爵様が拗ねちゃってるみたいなのよ」


「えぇ……?」一行全員が呆れた顔で声を揃えた。


リオナは頭を抱え、信じられないというように嘆いた。「もう、本当にどうしようもないわね……」


エリオは少し戸惑いながら、「え、拗ねてるって……どうして?」と不思議そうに尋ねた。


ミレイは苦笑いを浮かべながら、「いや、あんたたちがさっきのショーをちゃんと楽しんでないのが不満みたいでね。どうもあのショーは公爵様の自信作らしいのよ」


ルビィがタバコをくわえながら乾いた笑いをもらし、「ったく、そんな理由かよ……」とため息をついた。


「でも、どうするの?」リオナは再び状況を整理しようと、ミレイに問いかける。


ミレイはうーんと考え込みながら、「しょうがないわね……もう一度楽しそうに見せてあげるしかないかもね」と、意外な提案を口にした。


リオナは呆気にとられ、「そんなのやってられないわよ!」と一瞬抗議したが、仕方なく頭を抱え、どうにかして公爵を納得させる方法を考え始めた。

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