第2章第7話: 「公爵のお屋敷」
ルビィの精霊の力が発動すると、周囲の森に光が差し込み始めた。それまでの鬱蒼とした暗い木々が一瞬にして蒸発したように姿を消し、代わりに風に揺れる柔らかな草が一面に広がる。辺りを包み込むような、ほのかな光が草原全体を優しく照らし、色とりどりの小さな花が輝いて見えた。
リオナとエリオは、この突然の変化に言葉を失い、目を丸くして辺りを見渡した。さっきまで重苦しい静寂に包まれていたのが嘘のように、草原にはさわやかな風が吹き渡り、ふんわりとした草の香りが鼻をくすぐる。
「……これ、ほんとにさっきまでのあの森?」リオナがぼそりと呟く。
エリオも驚きを隠せず、翼をぱたぱたと揺らしながら辺りを確認していた。「信じられない……ルビィって、こんなこともできるんだ……」
一面に咲いた花々も見事だった。黄色や紫、赤、そして青と、彩り豊かな花がところどころで咲き誇り、柔らかな草とともに美しい景観を作り出していた。リオナは足元の花をそっと踏まないように気をつけながら、一歩ずつ歩いて周りを眺めた。
「こんなに素敵な場所になるなんて……ルビィ、ただの精霊じゃないのね」リオナは感嘆の声を漏らした。
風に揺れる花びらが彼女の肩にふわりと落ち、まるで花の精が彼女を歓迎しているかのように見えた。
ミレイは呆れたように、少し笑いをこらえながら言った。
「まさか、そんな“芸”ができるとはね~」
「芸とか言うなって、ぶっ飛ばすぞ!」ルビィは笑いながら軽くミレイの肩を叩いた。
リオナは二人のやりとりを見ながら、少し首をかしげて尋ねた。
「あなたたちって、結構長い付き合いなんじゃないの?」
ルビィは首を横に振り、さらりと答えた。
「いやいや、パーティー組んで冒険するなんて初めてだし。ミレイとは気が合うからってだけよ~」
「え?本当に?」リオナが驚くと、ミレイが急に何かを思い出したように声を上げた。
「……ちょっと待ってよ。ってことは、私以外、みんなクエスト初心者じゃん!」
「そうみたいね~」ルビィが楽しそうに笑いながら頷き、リオナも満面の笑みで「初心者です!」と答えた。
エリオはそのやりとりがわからず、戸惑いの表情を浮かべた。
「え……?クエスト?それってどういう意味?」
ミレイはため息をつきながら、エリオを見やった。
「はぁ、エリオもまだまだだね。私がついてないと何もできないんだから」
そんなやりとりに少し笑いを含ませたルビィが肩をすくめて言った。
「まあ、そんなことより……公爵の屋敷は遠いの?」
リオナがミレイに尋ねると、ミレイは不思議そうに指をさしながら言った。
「ほら、あそこに見えてるじゃん」
三人は指さす方向を見やり、思わず目を見開いた。そこには、すでにお屋敷の門が見えていたのだ。暗く重々しい雰囲気で、立派な門が立ち、まるで草原の中にぽつんと存在しているかのようだった。
「え、こんなに近かったの?」リオナは驚きの声を上げた。
ルビィも少し意外そうに、「なんだ、遠いと思ってたのにね~」と呟いた。
門の前に到着し、一行はしばらく門を見上げながら考えを巡らせた。リオナがふと疑問に思い、ミレイに尋ねた。
「ねえ、公爵ってどんな人なの?」
ミレイはニヤリと笑い、周りの墓地のような暗い雰囲気を指さしながら答えた。
「あんな場所に屋敷を構える人がまともだと思う?」
リオナ、ルビィ、エリオは顔を見合わせて、何かを察して揃ってうなずいた。少し不安を抱きつつも、彼らは笑いを浮かべながら門の奥へと進んでいった。
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