第2章第3話: 「飛ぶドラゴンとポップ爺さん」

次の朝、広場の惨状を見たドワーフたちは、激怒していた。壊れたテーブルや椅子、散らばった食器に壊れた酒樽があちらこちらに転がっている。


「こんなに壊しやがって!なんて奴だ!もう二度と来るな!」


ドワーフたちは、口々に怒りの声を上げ、一行を追い出すことにした。リオナとエリオは申し訳なさそうに頭を下げ、ミレイは相変わらず軽い調子で「いや~、昨日は盛り上がっちゃったね~」と呑気に笑っていた。


「さて、それじゃ行こうか……」

ミレイは軽くため息をつくと、ホウキを取り出し、それにまたがるとふわりと宙に浮かび始めた。


「え?飛ぶの?」

エリオとリオナは同時に驚いて声を上げる。


「そうよ~、早く着くでしょ?」ミレイは余裕の笑みを浮かべていた。

横でルビィが目を輝かせ、ワクワクした表情で「飛ぶの?いいじゃん、やってみようよ!」と言ったが、エリオとリオナは顔を見合わせて、即座に反対した。


「いやいや、飛ぶのはちょっと……昨日のことがあるし……」

「私も高いところは嫌だわ」


二人は全く乗り気ではなかった。エリオは特に、昨日の飛行体験が頭をよぎり、再び高所でパニックになるのを恐れていた。


「しょうがないなぁ~」とミレイはしぶしぶ言い、杖を振ってエリオに魔法をかけた。


「幻惑の魔法よ。これであんたも飛べるようになるわ」


エリオの体が軽くなり、地面からふわっと浮かび上がる感覚に彼は驚いたが、昨日よりは少し余裕がある。


「おぉ……これは……」


「どう?いい感じでしょ?」ミレイは得意げに微笑んだ。


ルビィは少し残念そうに「豪快に飛びたかったのに~」とぼやいていたが、エリオが飛べるようになったことで、とりあえず一行は出発することになった。


**空中移動しながらの会話**


エリオは空に少し慣れたせいか、余裕を持ってミレイに尋ねた。


「それで……ドラゴンになるって、どういうことなんですか?僕は普通の王子だったはずなのに」


ミレイは、空中をゆったりと漂いながら説明を始めた。


「変幻の魔法っていうのはね、すごく古い魔法なんだよ。今の時代じゃほとんど使う人なんていないし、使ってもせいぜいムキムキのマッチョに変わるくらいが限界。ドラゴンに変わるなんてのは、まぁ、特別なケースよ」


「特別……?」


リオナもエリオの隣で飛びながら興味津々で耳を傾けていた。


「そう、あんたは特別。王族の血筋とか、そういうものが絡んでるんじゃないの?あたしも詳しいことはわかんないけど、ドラゴンに変わるなんてのは、普通の人間にはできないことよ」


エリオは驚きながらも、言葉が頭に引っかかっていた。


「それじゃ、僕は何か特別な存在だってこと?」


「まぁ、そういうことになるわね。でもね、ドラゴンになるってのは、ただ強くなるだけじゃないのよ。ドラゴンになると、誇りみたいなものが芽生えるの。『ドラゴンの誇り』ってやつね。自分が特別な存在だって意識が強くなるの」


ミレイは軽く笑いながら話していたが、エリオは顔を曇らせた。


「ドラゴンの誇り……僕にはそんなのいらない。ただ元に戻りたいだけなんです!」


「いやいや、ドラゴンってのは国の象徴なのよ?王族として誇りを持つべきだし、むしろ喜ぶべきじゃない?」


ミレイはそう言ったが、エリオは首を横に振った。


「そんなこと言われても、僕はただ普通に戻りたいんです!ドラゴンの誇りとか、どうでもいい!」


リオナも同意しながら「そうよね、やっぱり人間の姿が一番よ」と言った。


その時、ミレイが急に空中で止まって指を差した。


「着いたよ」


エリオとリオナが見下ろすと、そこには岩だらけの荒涼とした地形が広がっていた。泉なんてものは見当たらない。


「ここ……?何もないじゃない!」リオナが苛立った声を上げる。


エリオも同様に疑念を抱いた。「また騙したの?」


ミレイは肩をすくめて「いやいや、ちゃんと理由があるのよ」と答えた。


「真実の泉ってのは、移動する泉なの。だから今ここにはないわけ」


「移動する泉……?」エリオは呆れながら聞き返す。


「そう、だからその場所を知ってる人に聞かなきゃいけないのよ」


ミレイはそう言いながら、岩場の奥に向かって歩き出した。そして、奥に進むと、一人の人物が座っているのが見えた。虚ろな目をした爺さんが、大きなリュックを背負い、ぼんやりと座っている。


「紹介するわ。この爺さんが、真実の泉の場所を知ってる人よ。ポップ爺さんっていうの」


ミレイは満足そうにその爺さんを指差し、リオナとエリオはさらに困惑した。


「え……この人が?」


「うん、そうだよ~」


エリオとリオナは、目の前の虚ろな目をしたポップ爺さんを見つめながら、頭の中が混乱していくのを感じた。

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