第2章第2話: 「酔っぱらいドラゴンの大暴走」

夜が更けると、ドワーフたちの宴会がまた始まった。焚き火の周りには、豪快な笑い声とともに、ビールの樽が次々と空になっていく。リオナは、彼らの宴の様子を呆れ顔で眺めながら、頭を振った。


「また宴会か……。よく毎日こんなに飲めるわね……」


彼女は二日酔いの記憶が鮮明に残っており、ドワーフたちが勧めてくるお酒に対して、きっぱりと断りを入れた。


「いや、今回は本当に無理。二日酔いはもうゴメンだわ」


ドワーフたちは一瞬驚いたが、すぐに「そりゃあしょうがねえな」と言ってリオナを放っておいた。だが、宴会の雰囲気の中、リオナの気は晴れない。エリオのことを考えると、どうしてもすぐに解決策が欲しかった。


リオナは宴会の喧騒の中、ミレイに歩み寄り、真剣な表情で問いかけた。


「そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?エリオをどうやったら元に戻せるのか」


ミレイは、グラスを片手にケラケラと笑いながら、まるでその質問を無視するかのように答える。


「え~、そんなのどーでもよくない?今は楽しもうよ~!」


その横で、ルビィも頷きながら「そうそう、楽しんだほうがいいって~」と賛同している。ルビィはお酒を飲みながら、愉快そうに笑っていたが、リオナは真剣そのものだ。


「どうでもよくない!エリオが困ってるのよ。早く説明して!」


しつこく詰め寄るリオナに、ミレイはついにため息をつき、めんどくさそうに目を細めて答え始めた。


「はぁ、わかったわかった~。あんたしつこいね~。変幻の魔法よ。エリオがドラゴンになったのは、あたしの魔法のせい」


「変幻の魔法?そんなん使えたっけ?」ルビィが驚いたように口を挟む。


「いや~、実はあの時、初めて試したんだよね~」


リオナはさらに困惑し、呆れた顔を見せた。


「……つまり、エリオを実験に使ったってこと?」


ミレイは悪びれる様子もなく、ケラケラと笑いながら続ける。


「そうそう、試しにやってみたの!そしたら、まさか本当にドラゴンになるなんて思わなかったから、ビックリしたわ~」


リオナは驚きを通り越して怒りに震え、エリオに同情の目を向けた。


「それ、酷すぎない?元に戻せるの?」


ミレイは再びケラケラと笑いながら、リオナの質問に答える。


「元に戻す?そんなの無理無理~。だって、あたしにもそんなことできないし~」


その言葉を聞いていたエリオは、衝撃を受けたように硬直し、鱗がびりびりと震えた。普段は落ち着いた彼の目が、急に赤く染まり始め、周囲にあったドワーフたちの言葉が耳に入った。


「ちょ……待て、これ、酔っ払ってるのか?」


エリオの体がグワッと膨れ上がり、彼の普段の地味な鱗は、真っ赤に輝き始めた。目は完全に据わり、顔は無表情だが、何か危険な雰囲気を漂わせている。


「これ、ヤバい……」ルビィがぼそっと呟く。


エリオが突然立ち上がり、巨大なドラゴンの体で周りを見渡した。目に映るのは、ドワーフたちが笑い、宴を楽しむ光景。だが、その瞬間、彼は暴れ出した。


「うわあああ!逃げろー!」

ドワーフたちは一斉に散り、エリオの巨大な体が次々とテーブルや椅子を壊していく。焚き火が倒れ、飲み物の入った樽が転がり、広場全体が大混乱に陥った。


「このドラゴン、酔わせちゃダメなやつだったのか!」


ドワーフたちが口々に叫ぶ中、リオナとルビィはなんとかエリオを止めようと必死だった。だが、暴れ回るエリオの力は凄まじく、誰も彼を止めることができない。


その時、ドワーフの一人が叫んだ。


「魔女!お前のせいだろ!なんとかしろ!」


ミレイはその言葉にギクリと反応し、少し怯えた表情を浮かべた。いつもの余裕は完全に消え、エリオが暴れるたびにビクビクし始めた。


「いや、あたしには……止められない……」


それでもドワーフたちの圧力に負け、ミレイはエリオの方を見つめながら、震える声でなんとか続けた。


「でも……ちょっと待って。『真実の泉』に行けば、もしかしたら治るかも……!」


その言葉を聞いた瞬間、暴れ狂っていたエリオが突然ピタリと動きを止めた。彼の鋭い目が、ゆっくりとミレイの方に向かい、じりじりと彼女に近づいていく。


「……本当?」


エリオの顔が、ミレイの鼻先に迫る。普段の無敵な態度はどこへやら、ミレイは完全にビビっており、冷や汗が流れ出している。


「う、うん、本当……だから、ちょっと落ち着いて……ね?」


エリオは目を細め、さらにミレイに近づいた。ミレイは完全に怯え、手を合わせるようにしながら、必死に頷いていた。


「どこにあるの?」エリオは低い声で問いかけた。


「ちゃんと教えるから……ほんと、だからもう、落ち着いて……」


「一緒に来てくれるよね?」エリオがさらに強く迫ると、ミレイは恐怖で震えながらも、何度も頷いた。


「もちろん……もちろん行くよ!」


エリオはリオナとルビィの方に視線を向け、「君たちも行くよね?」と尋ねると、二人もすぐにコクコクと頷いた。


エリオは満足そうに笑い、ようやくその場で「ドサッ」と寝転がってしまった。あたりは再び静まり返り、宴会場はまるで戦場のように荒れ果てていた。


「……とほほ」


ミレイ、リオナ、そしてルビィは呆然としながらエリオを見下ろし、疲れ切った顔でその場に立ち尽くしていた。

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