第1章第6話: 「旅の始まり」

「ったく、しょうがないわね……」


リオナは深いため息をつきながらエリオに向き直った。情けないドラゴンの頼みを聞き入れ、仕方なく彼を助けることにした。リオナは決断すると、剣をしっかり握り直し、エリオをじっと見つめた。


「いいわ、助けてあげる。でも、足手まといになるんじゃないわよ?」


エリオは泣き止み、感謝の表情を浮かべてリオナに頷いた。


「ありがとう、リオナ……僕、がんばるよ」


「その言葉、すぐに後悔させないでよね」


リオナは軽く呆れた表情で言い放つと、再び歩き始めた。エリオもその後ろを追いかけて歩き出す。こうして二人の旅が始まった。リオナは本当に助けるべきか迷いつつも、困っている人を放っておけない性分だ。旅をしながら、どうにかしてエリオの呪いを解く手がかりを見つけなければならない。だが、まずは目の前の道を進むしかない。


しばらく歩いていくと、森の木々が少しずつ開けて、一本道が目の前に現れた。その道の真ん中には、小さな魔物たちがたむろしているのが見えた。


「……あれは、ゴブリンね」


リオナは剣を構えながら目を細めた。ゴブリンは森の中ではよく出没する小物だが、集団で現れると厄介だ。彼らはまだこちらに気づいていない様子だが、今のうちに退治しておいた方がいいだろうとリオナは考えた。


「よし、退治してやろうじゃない」


リオナは自信満々に言い、エリオに向かって振り返った。だが、エリオは怯えた様子で彼女の袖を引っ張り、静かに言った。


「や、やめた方がいいよ……あんなことしなくても、通れるかもしれないし……」


「何言ってんの?見逃したら面倒なことになるかもしれないでしょ。先手必勝ってやつよ」


リオナは即座にエリオの言葉をはねのけた。だが、エリオは不安そうに首を振り続けた。


「でも、僕たちが無理に戦わなくても……危険だよ」


「危険なのはあいつらでしょ?ここで逃がしたら、あとで厄介になるわよ!」


リオナは苛立ちながらエリオに反論したが、エリオも自分の意見を曲げなかった。二人の間で言い合いが続き、リオナがさらに強気に出ようとしたその瞬間――。


「……あ」


ゴブリンの一体が二人に気づき、その瞬間、他のゴブリンたちにも警戒が走った。ゴブリンたちは武器を構え、ギャーギャーと不気味な鳴き声を上げ始めた。


「ほら、見つかった!さぁ、戦闘開始よ!」


リオナは剣を掲げ、ゴブリンに向かって突進する準備を整えた。いつでも攻撃できる状態だったが――。


ゴブリンたちは突然、武器を投げ捨て、恐怖に満ちた表情で逃げ出した。リオナは思わず剣を下ろし、困惑した表情でその場に立ち尽くした。


「……え?」


彼女は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。戦闘になると思っていたのに、まさか敵が一方的に逃げるなんて予想外だ。逃げていくゴブリンたちの後ろ姿を見送りながら、リオナは首をかしげた。


「なんで逃げたのよ……」


その時、ふとエリオの方に目を向けると、彼がその場で立ち尽くしているのが見えた。大きな体のドラゴンが、あの威圧感のまま立っている――そう、リオナはようやく気づいた。


「……ああ、そうか」


リオナはピンときた。ゴブリンたちは戦うのではなく、エリオのドラゴンの姿を見て恐怖し、逃げ出したのだ。


「まさか、エリオ……あなたが怖がらせたのね」


エリオは驚いたようにリオナを見つめた。


「え?僕が?」


リオナはため息をつきながら、剣を鞘に戻した。


「そうよ。あのゴブリンたちはあなたを見て逃げたの。私じゃなくて、あなたのおかげで勝負はつかないうちに終わったってわけ」


エリオは困惑した表情を浮かべながらも、自分が無意識のうちにゴブリンたちを追い払っていたことに驚いていた。


「僕……そんなつもりじゃなかったけど……」


「ま、結果オーライってやつね」


リオナは軽く笑い、エリオの背中を軽く叩いた。エリオはその言葉に少しだけ安心したように見えたが、まだ不安そうな表情は消えていなかった。


「でも、これからもこんな感じでうまくいくのかな……」


「そんなこと気にしないで。あんたの存在が敵を怯えさせるなら、それはそれで利用すればいいのよ」


リオナは自信満々に言い放ち、再び歩き始めた。エリオは少し戸惑いながらも、再びリオナの後ろをついていく。


こうして、二人の旅は続いていく。

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