第32話(閑話) どうでも良い話集
【ココアを飲む話】
時は深夜。勉強会が開催した時間から数時間が経ち、今はもう祐二が一人が家に取り残されている状態になっている。
満足のいく程度には由美を堪能できたので今回はよく眠れそうだとは思ったが、深夜に起きてしまった。
寝つきが悪くなってしまったのは、暑苦しくなってきた気候が関係しているのだろうか。
「久しぶりだな」
明かりを付けなければ暗く感じてしまう夜の中、祐二は椅子に座る。
深夜に起きてしまったのなら、もう一度寝れば良い話だ。しかし、今の祐二にはそれを行う意思はなかった。
寝つきが悪かった中学時代と比べ、高校生になってから……正確には由美との関係が深まった時から寝つきは良くなっていった。
故に、久しぶりの体験なのだ。少し心が躍り、寝たくはなくなってしまった。
我ながら深夜テンションが混ざっているな…と感じているが、それすらも久しぶりなので何とかする気は湧いてこない。
「ふふ……寝たくない、というのも久しい。昔、順次にそうやって甘えたものだ。まともに構ってくれるのが順次だけだった時、寝たくないと言った。その度にココアを入れてくれたっけなぁ。市販のものだったけど……それが嬉しくて。それが本当に美味しくて。多分、あれが一番好きなココアだ」
小学校時代だったか、中学校時代だったか。曖昧な思い出を再起させつつ。目頭を指で押さえつける。
最近は由美といる事であまり考えなかったが、高校が終われば順次達とは縁を切る事になってしまう。
その事実を見ないふりできたら良かったのだろう。だが、育ての親と認識している人を切る……その選択の影響を見ないなど、できなかった。
己が選んだモノだ。過去の自分を見て、未来の自分を考えて。何回も、何十も、何百もその過程を繰り返してした果ての判断があれだ。
後悔はない。今でも思っている。あの親達との決別……それ即ち縁を切る。その判断が間違っているとは思わない。
由美と別れ、親の傀儡人形として生きるのは幸せを得れる生き方ではない。
あぁ、だが……やはり思ってしまうのだ。もし親達と分かり合えたらなら、と。
「なーんて。そんな奇跡が起こる訳がないんだ。ははっ、ココア飲んで寝よ。あと……順次達に紹介もしないと。まだ縁があるウチに紹介しないと」
【他愛もない陸と理亜のお話】
「りっくんはさ……どうして私を選んでくれたの?」
「どうしたの急に。顔暗くして、何か嫌な事でも思い出したのか?中学の時の声は気にしなくて良いって…」
「そっちじゃないよ。ただ……選んでくれた口実を噛み締めたいなって思ってるだけ」
とても濃いのを話してくれるのだな、と思われているかのような満面の笑み。
そんな大層なカードは陸の中にはないのを知っているだろうに……いや、知っていたとしても。
知識の中にあるものだったとしても、知りたいのだろう。
これは本当に知りたいものではなく、"知りたい"を口実としたイチャつきなのだから。
最初の控えめな頃と比べて、自分の意見をよく出すようになったと実感して、口角が伸びる。
その後押しなったと思われる二人に密かに礼を言いつつ、理亜の頭を撫でる。
「大事に手入れをしているはずの髪を俺に触らせてくれるのも好き」
「他だったら触らせないよ。りっくんは私を優しくしてくれるって、大事にしてくれるって知ってるから。りっくんが面倒臭い私に対して真面目に接してきてくれた成果だよ。だから、満足にそれを受け取りなさい」
「はいはい……俺はそれを受け取りたい訳ではないのですよ。今は理亜に伝えたいだけだよ。俺が大好きな理由を…理亜を選んだ訳を」
高校になり、ボブへと切った髪を指で掬う。少し伸び始めてきたであろう髪を拾って、キスをする。
体の感覚としてはむず痒いだけであるが、心の感覚としては、結構な衝撃だ。
ただの口付けで頬を夕日のように赤く染まらせた理亜に対して微笑みつつ、唇を親指でなぞる。
「髪へのキスでへにゃへにゃになってしまう弱い理亜も好き。たまに強かになる理亜も好き。弱った時にデロデロに甘えてくれる理亜も好き」
「そ、そう?」
「そうだ。俺は……全ての理亜が好き。嫌いになる理亜なんてありえない。クサいかもしれないけど……全てを愛してる。出会った運命も、手を合わせれる日常も……理亜が関わっているのは、俺にとって全てが祝福なんだ」
「そっか……えへへ、ありがと」
「おいおい。これで終わらないよ。俺が満足するまでやるよ。だから…思う存分悶えてくれると嬉しいかな」
「Sを発揮するのは良くないと思いますけどねぇ……」
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