第28話 寄り道はしたいのが高校生

「お疲れ様でした。人気者になれてたな、良かったじゃん。うぅっ……育ててきた労力が今報われると思うと。無限に涙が出て来ちゃいますわよわよ。感動で咽び泣くとはこの事を言うのですね。ウッウッウ」


「お前さぁ……それ何回目?天丼ネタは普通にウザいぞ」


「へいへい。ごめんなさーい」


ファミレスに集会し、用件が終わったので解散をした祐二と陸。

いつも帰る時は相方が居た為、友達の中で親しい枠に入るのが相手でも帰る機会がなかった。

それゆえ、新体験を噛み締めるかのように駄弁りながら歩くのだった。


「人気者、ね。どうして俺って熱狂されてるのか。自分自身、意味が分かりません」


「そりゃおめぇ……どんな話にも合わせれて、その人が話したいところにまで持っていく。それに加えてドライでたまに熱くなるって……面白そうな要素しかないじゃん。そういう事よ」


「なるほど、そういう事か。え?俺って珍獣扱いされてないか?」


一瞬納得しそうになったものの、瞬間的に脳裏に通りかかった疑問を口に出せば、陸はどこかを向いて口笛を吹いた。

何とも典型的な誤魔化し方に呆れつつ、とりあえずとして陸の額にデコピンを喰らわせる。

それをしても珍獣扱いは取り消されないと分かってはいるが、ムカついたのだ。仕方ない事である。


その行動に陸はグチグチと文句を追加しているが、それを言いたいのはこちらの方である。

珍獣扱いをされ、誰が納得できると言うのだろうか。

そのような心が陸を見ていたらふつふつと沸き出して行き、不満が上がってくる。


なので、心の代弁としてデコピンを追加しておく事にした。


「いってぇ…!力が強すぎじゃないですかね、祐二さんやい」


「割と加減したぞ。本気でやったら痛いだろうから中程度の力で」


「うげぇ…どこにそんな力があるんだよ。祐二って帰宅部だろ。身長は大きいけど、体格はあんまり大きくないだろ?」


「はっ。デコピンは指の力じゃい。…なあ、俺ってそんなに非力そうに見えるか?ジムとかも言ってはいるんだが」


「多分普通の人っぽいからそう見えるのだと。俺氏は思いました。てか、本当にジム言ってんの?」


「発狂すんな。近所迷惑になるでしょうが。…はー、陸さんまで疑いになるんですね。ほらよ、触ってみんさいや!」


「へぇ、では早速。うわっ!硬っ!まさしく、まさしくこれは筋肉です!ジムに行っていた云々は正しいものとなりました!」


ジムでの成果を確認し、意味不明のテンションではしゃぎ回っている陸に対して冷めた視線で見つつ、いつまでも腕を揉み続けている手を弾く。

腕から離れた自身の手を見て、名残惜しそうに唇を噛むのは辞めてもらいたい行動である。

心底気持ち悪いと言葉を吐きそうになる。


「はー……コーラ飲みてぇ。疲労で頭痛くなってきたぜ」


「おぉ、そりゃ大変そう。近くにスーパーあるから買いに行こうぜ」


どの口で言っているのだ、と思いつつ。本気でビンタが出そうになった手を抑えて陸についていく。


***


「バナナオレうめぇ」


「コーラはどうしたんすかねぇ…」


「思い出したんだが、俺ってコーラが飲めなかったわ」


あの時は疲れからか、脊髄で言葉を発したものの、冷静に考えれば無理な飲み物であった。

疲労でテンションがバグり散らかしている状態とは末恐ろしいものである。

普段の言動とはかけ離れた言葉を発してしまう危険性を有しているのだ。


内心が生み出したその結論に頷きつつ、静かにバナナオレをストローで啜る。


「アホや、ここにアホがある」


「アホ言わんといてくれ。風評被害……じゃないかもしれないが、事実陳列罪はひどい思います」


「ねえよ、そんなもん」


呆れたようにボケを遇らう陸に対し、上手くなったなと感傷的な気持ちになってしまう。

そういう系の話題になるとツッコミを入れている祐二であるが、本質は陸と何ら変わっていないのかもしれない。


「なあ、祐二。大丈夫、なのか」


ブラック缶コーヒーを手元に持ち合わせている陸は、話を切り替えようと言わんばかりに話題を変える。

しかし、言葉と態度は、話を切り替えようとする意思とは真反対と言えるような姿である。

歯切れの悪そうに言葉を発し、それが終わったら唇を噛み締める。


気になる、大丈夫なのか、心に傷を負っていないか。友人としての心配な思いが凝縮された結果、先に出てしまったのだろう。

中学の時の立ち位置しか見ていない偽りの友人とは大違いだ。

目の前の男は、目の前の友達は、ただ一人の人間を案じている。


その事実、その目の前の光景にありがたいと思いつつも、あまりのむず痒さにストローを噛んでしまった。


「祐二?」


「いや、何でもない。……大丈夫だよ、クソ親父との件を心配してくれてるんだろうけどさ、大丈夫なんだよ。元々、覚悟はしていたさ。いつまでも自分達にしか関心を抱かない人だと知っていた。俺がここまで育つまで、何一つ変わらない時点で察していたよ。いつかは離れ、生まれた時から存在していた縁は崩れ去る事になるともね」


「だからって大丈夫な道理は無いだろ。どれだけ覚悟をしていても、辛いものは辛い。泣きたい時は泣きたいもんだ。一人で抱え込むなよ、祐二。お前は一人じゃないんだ。俺や理亜に相談できなくても、金城さんにはできるだろ。墓場まで持ってくんじゃねぇぞ」


「本当……お前お人好しだな。ただの友達の為にそこまで言うかよ」


(大丈夫だって。そんなつもり、とうの昔にボロボロに破壊されてるからな)

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