第27話 体育祭、頑張るよ★

「さて……体育祭の種目はこれになります。好きに選んでくださいね。とは言っても、早い者勝ちにはなりますが」


体育祭前がある為、その種目決めをする時間。その時間と共に放たれた担任の言葉に悩んでいる祐二の姿があった。

特に何をやりたい、というのもなく。彼女に格好つけたいという視点から言ったとしても、全てに得意な物は無かった。というか、全部大体そつなくできるので、選ぶ必要がないのだ。


リレーでも騎馬戦でも……その全てに即戦力として可能。

何度目かの社長子息による弊害である。


「祐二くんはどうするの?」


黒板へと書きに行った人々でカモラージュしていたのか、由美はこっそりと隣にやってきて話しかけに来た。

少し面白そうなものを見るような、愉悦が瞳に混じっているのは、祐二がスポーツに関してハイスペだからだろうか。


「余ったのに入るさ。特にやりたいのとか、俺にはないし。皆がやりたいのを選んで、俺が余物を選ぶ。そうすれば、不満に思う奴は少なくだろ」


「ふふーん。なっるほどねー。さすが教祖ですな、皆に譲る協調性があります。いや、逆に協調性がないのかな?」


「うるさい子猫ちゃんですねー。あと、俺はもう教祖じゃない。あのクソ親父にクビにされたからな」


わいわいと賑わっている前方を見ながら、言葉を吐いた。どこかそれは清々しさを感じてしまい、憑き物が取れたようであった。

どこか遠くを見ているような、そして近いものを見ているような。そんな視線を醸し出している祐二に対して、由美は静かに寄り添うのだった。


***


「よっしゃぁぁぁーー!!」


種目を決め、体育祭の練習を終え、学校が終わった放課後。

リレーの種目に出る事になった人達がファミレスで集まり、騒いでいた。

そして、そこに集まっているのは祐二も例外ではない。

走る時のフォームと速度を鑑みた結果、祐二は選ばれたのだ。


オレンジの炭酸飲料を飲みつつ、端っこで密かに顔を顰めていた。

公共の場なんだから静かにしろ、という心とその原因が自分にある、という心。

その二つに挟まれ、微妙な感情を浮かべていた。


「雨宮がこっちに来てくれたら勝ちも同然だな。他のクラスどころか、違う年にも負ける気はしねぇな。はっはっは!先輩達に勝ってやるぜ!」


「なんでそんなに強気なんだか。確かに戦力になるかもしれんが、言うてだろ。勝ちを確信できる程強くはないぞ。本場の人には負ける。」


「いやいやいや。めっちゃ強えじゃん。お前、自分がどれだけ凄いのか、そして周りのどう思われてるのか知らんのか。究極の器用貧乏って言われてんだぞ。多方面からんな」


器用貧乏とは人を貶める的な言葉であるはずだが、祐二の場合は高まった身体能力で誉の領域にまで達しているのだ。

これは幼少期の頃に受けた様々なスポーツの英才教育だろう。


「まあ確かに本場の人に教えてもらったから多少はマシかもしれんが……」


「え、本場の人?……まあまあ、細かい事は置いておこう。リレーの配置を決めておこうぜ。誰がどの順番で走るとか決めなきゃじゃん」


「俺はどこでも。一応、最初と中間と最後。どれも経験しているし、どれも等しく能力を発揮可能だ」


「ひえー、万能の祐二さんは怖いですねー。どれを選んでも対処可能か」


「黙ってろボケナス陸。サラッと二つ名変えてんじゃねぇよ。独断の判断は身も滅ぼすってモンテスキューも言ってたぞ」


「言ってねえよ」


勝手に二つ名を変更した陸にツッコミとボケを入り交ぜた言葉を放てば、即刻否定の言葉が飛んでくる。

祐二までふざけたら収拾が収まらなくなる。その思いから呆れの視線が飛んでくるが、軽めの謝罪で済ませる祐二であった。


その様子に周囲はため息を吐きつつ、リレーの準備を進める。

自分は真ん中が良い、自分は後ろが良い、自分は真ん中が良い。自己の考えを押し通しつつ、他の人の意見も理解するような言葉がファミレスに襲いかかる。

中々決まらないものだ、と内心で思いつつ。順番決めに苦労している張本人達を余所に炭酸飲料を飲み進める。


「中々決まらないね」


「広瀬か。そりゃ人生で一回しかない高校一年生の体育祭だ。自我を出したいというものだろう。それも、間違いなく青春であるしな」


「悟った事を言うんだね、雨宮は。それだったら君は自我を出さないのか?」


「知ってるだろ、俺は興味がないものに関心は抱きたくないんだ。面倒くさい事に熱意を抱いても大変なだけだろ」


「そっか。……じゃあ質問。雨宮、君は面倒くさい事が嫌いなんだろう。だったら、どうして家に帰っていない?君のポジションはすでに決まっている。帰っても誰も文句は言わない。皆君のドライの性格は知っている」


単純な疑問だった。祐二の人間性をある程度知っている銀だからこその疑問。

それよりも深まった関係の陸や由美が抱く事のない疑問であった。

その言葉に話し合っていた人達は止まり、静かに頷いていた。

そして、陸は人に隠れて意味深に笑みを作る。


「勝ちたいからだよ。勝ちたいからいる。どんな人かを知っていれば、バトンの受け取りやすさは上がる。ただ、それだけ」


「君はドライだから、それに思い入れはないと思っていたけど。上を見れば、その差は果てしないものになるからね。諦めて等身大を歩いていると思っていた」


「知ってるよ。差なんて、クソ程知ってる。ただ、まあ……負けず嫌いだけは誰にも負けたくないから。だからやる。そんだけ」


「なるほど……ドライと熱いは共存するのか」

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