第22話 誕生日プレゼント
「はー……はぁぁぁぁ!!疲れたぁ!やべぇわ、疲労やべぇわ。菓子作りとか手慣れてますけども、ケーキを作るのだけで相当疲労強いぞ。同じ日にご馳走大量に作ったってのもあんのか?前作った時はこんな疲労強くなかったもんな」
「そっか、お疲れ様だね」
「へ?……はは、由美さんじゃないっすか。いつの間に帰ってきてたん?」
「いつの間にって…私連絡したよ?そっちが見てないだけだよ。だいぶお疲れで深夜テンションに近い風貌になってますけども、本当に誕生日パーティやるの?お通夜みたいにならない?」
言葉通り、かなり疲れているらしい。ケーキを作り終わり、ダウンをしていた裕二は隣へと近寄ってきた由美に気がついていなかった。
人差し指を裕二の額に押しながら心配の声を投げかけてくる由美であるが、引くつもりは微塵としてない。
本当に同じ生命体かと疑問に思う程の唸り声を出しつつ、立ち上がる。
全力全開で祝いたい、という心から準備を最初から最後まで取り掛かっていたのだ。
ここで取りやめたら、過去の自分に合わせる顔がない。
いや、それどころではない。同じ宗教メンバーにも協力してもらったのだ。辞めれば順次に顔面パンチを受ける未来が見える。
「いいや、やるね。当日じゃないと鮮度が落ちる。お誕生日の祝いってなぁ……寿司みたいなもんだ。自分がこの世に存在する事が初めて名義された瞬間が生まれなんだ。それを当日に祝わないのは悲しいだろ。と!く!に!由美のような、わりかし自分を蔑ろにしている人はな!言ったろ、最高の誕生日にするって!!」
「本当、バカだなぁ……。私なんかの為にそこまで本気になって。自分の誕生日じゃないんだから本気にならないでも」
「うるさい。俺はな、お前の事が自分以上に好きなんだよ。自分以上に好きだから、本気で祝いたい。それだけだ」
「はいはい、分かりましたよ。手伝いとかいりそう?」
「要らん!今回の主役だからな。王らしく踏ん反り返っとけば良い」
「それはそれでどうなのかな……」
主役とは言えども、それは極端すぎるのではないかと呆れ顔を披露しているが、裕二はノーコメントである。
キッチンに入り、冷蔵庫から様々な物を取り出し、最後のあと一つを付け加えていた。
その様子に、由美の表情は変化する。呆れ顔から、恍惚としたような、目の前のものに喜悦を感じているような、そんな感情を移す明鏡へと変化した。
それすら裕二は気がつく事なく、ただひたすらに作業に没頭していくのだった。
***
「すっごい豪華。本音を言うとさ……頑張りすぎじゃない?明日とか過労死しないよね?」
「しないしない。俺を誰だと思ってんだよぉ!」
「そのテンションが明らかに普段通りじゃないから不安なんだよ!」
「えぇー」
「えぇー、じゃなくて。…まあ、いっか。今は楽しむとするかな。せっかく裕二くんが頑張って作ってくれた料理だしね」
最初に食べようと意思付けて箸を伸ばしたのは、鯖の竜田揚げであった。
何でも食べ、全てを美味しいと評価する由美であるものの、好みはもちろんとして存在する。
本人は気づいていないかもしれないが、魚関係の料理は反応が大きい。
それを知っての鯖の竜田揚げであった。
「んふ〜!おいひー!!」
裕二の予想通り、大当たりの結果へと到達した。
喜びは有頂天に至り、声を出して笑っている。普段と作る工程は何ら変化していないのだが、ここまで美味と感じるのはプラシーボ効果だろうか。
遠目から温かいお茶を飲みつつ楽しんでいれば、料理の山は、積もった塵を手で吹き飛ばせるが如く簡単に消え去っていく。
もう少し覚悟をする余裕はあると踏んでいたが故、爆速で減る料理達に対して恨みがましい視線で見てしまうのは致し方のない事である。
「美味しかった。ご馳走様、裕二くん」
「お粗末さまでした。さっき作ったケーキはまだ冷えてないからさ、冷やされてから食べよ?」
「そうだね。私も流石に食べ過ぎちゃったから腹休憩したいし…丁度良いか」
互いによる合意の平和条約を結べば、二人は近くのソファへと座る。
フカフカの柔らかいソファへと座れば、急激に疲労がやってきた。
ようやく落ち着けれる環境になったと体が認識をしたのだろうか。
どさっと襲いかかってくるそれのため息を吐きながらも、頭の中では記憶が再生されていた。
ここへと至り、幸せへと到達するこれまでが。
6月に出会い、小さい事を話題にタネとし、料理を奢り。一月、たったそれだけであるにも関わらず、互いに存在は大きくなるばかりだった。
笑った顔、怒った顔、不満な顔。新しく発見する度、失いたくないものだと認識して抱き抱えている自分がいた。
いつかこぼれ落ち、失ってしまうものだと知っていてもだ。
(漢になれよ、雨宮祐二。ひよるな、怯むな、臆するな。お前が好きなのなら、全力で抱き抱えにいくべきだろ)
裕二は覚悟を決める。甘いケーキを食べ終わった後の、甘い関係にする為の覚悟を。
***
「お腹いっぱいだー。少し眠くなってきたよ」
「そうか」
ケーキを食べ終わった目の前の少女に対して、唇を少しかむ。
覚悟はした。それでも、覆い切れないほどの緊張が胸奥に存在していた。
しかし、だからと言って引くのは男ではない。懐に隠し持っていた箱を手に取り、震えながら外に出す。
「か、金城由美!俺は、お前の事が大好きだっ!友愛じゃない。親愛でもない。異性として、俺はお前が好きだ。どうか、付き合ってください」
「それはどちらかと言えば婚約とか、結婚の方な気がするんだけど……まあ、良いよ。受けてあげる。だけどさぁ……うぐー!私が告白したかったー!何で先に告白するの!私は誕生日プレゼントとして裕二くんを求めたかったですー」
「えぇ…ごめん?」
「ごめんじゃねぇ、済まされないんだよ。という事で裕二くんには深夜まで付き合ってもらいますよー!」
「夜更かしは肌に響くぞ」
「黙らっしゃいお母さん!」
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