第21話 由美にとって
「由美ちゃん。裕二との関係は最近どうなの?裕二を獲るって言って頑張ってるみたいだけど。なにか進展とかさ」
「前と比べたら関係は深くなったと思うよー?裕二くんも踏み込んできてくれてるから、一緒に過ごす空間は甘くなりましたよ。これは恋人認定しても良いのでは、と思うくらいにはね。まあ、祐二くんはまだって言ってるけど」
ある一つの女子会。その会場にて、恋バナが強く熱い話題として盛り上がっていた。
それは、クラス中で熱狂の中心となっている金城由美の恋バナ。
そのような話に飢える桃色の猛獣達にとって、甘く純愛の姿は餌そのもの。
ゆえに、当の本人に群がっているのだ。
常人なら押されてしまうような猛獣達の大群であるが、由美は違う。
中学からもそれ系統の話は回ってきたからか、余裕綽々の笑みを持って答えていた。
これだけ甘いのだから手を出すなよ、という威嚇も含まれているだろうが…。
「じゃあさ!好意を示すような、それっぽい仕草とか雨宮くんはしないの?」
「するよ。毎日するよ。しない日なんて無いぐらいにはしてるよ。飽きずに飽きずに……毎日思った事を即座に口に出して。脳死に喋ってるんじゃないよ。それで私がどれだけ羞恥にしてるか。距離感が近いからさぁ!すぐ照れたって分かるの!それで微笑ましいものを見るように笑うから更に恥ずかしくなるの!もう少し加減してよ!」
先程までは冷静を意識して返答していたものの、今回の質問では熱い思い出が記憶の中でセルフ再生されてしまったらしく、思った事は全て口が吐いてしまっていた。
言葉が世界に放出された瞬間、発した言葉の意味に気づいた。
それにより、数多の羞恥が襲い掛かり、余計なものも含めて発した口を憎むのは当然であった。
冷静を意識して返事をしていた為、余計に羞恥がかかる。
抑えが効かなくなった子供のように熱くなってしまったのは、言葉の熱を補強していた。
「いやー、お熱いですねー。ぶっちゃけ、裕二が奥手化してお困りなのかと思ってた」
「確かに裕二くんが奥手なのはあるけど……それは本気になっていない時だけだよ?本気になった時はすごいよ。ポーカーフェイスを極め出して、私が攻めてるのに照れがあんまりないんだよ。とは言っても、たまに照れてくれる時はあるんだけど」
「それってさ、不満とか出てこないの?自分が頑張ってるのに何も反応しないなんて……」
頬が段々と冷えてきた由美は、その質問に対して首を傾げながら考える。
過ごしてきた時間を再起させながら、どうなのかを思考する。
確かに最初は色々と思う感情はあったが、知った今に曇り空のような感情はあるのか。
「うん、ないね」
「ないの!?」
「前はあったよ、前は。ちょっと前の話になるんだけどさ、知っちゃったんだ。裕二くんが格好つけてポーカーフェイスしてるだけって事。必死に頑張って顔を維持してるけど、心臓はバクバク言ってるって知っちゃったから。それが可愛くて可愛くて。不満に感じる暇なんか無くなっちゃった」
クッキーを口に入れながら答えれば、周囲は口を開けた状態へと陥っていた。
そこまで驚愕する状況か、と思いつつ。お菓子好きになっていた口は、運んできたクッキーを食べ続けてしまう。
「本当に好きなんだね…雨宮くんの事が」
「そうでしょ、自慢できるよ。私の初恋で、再発する事のない恋心だからね」
この場所では二度目の本音の感情。
自分を好きではなかった、好きになってはくれなかった。そんな自分を好きにさせてくれたのが雨宮裕二という男。
先程は意図せずの感情の発露であったが、今回は意図しての感情の発露。
他人からしたら、これは惚気に当たるだろうか。
それとも、恋に重点を置き、現を抜かしている軟弱者に映るのだろうか。
……だとしても、何も問題はない。そう言われる覚悟を持って、心底惚れたのだから。
「なんというかさ、二人は出会うべくして出会ったっていう感じじゃない!?まるで物語のような、超ロマンチックな展開!」
「私はそう思わないよ。きっと、出会う時の何かとか、対応とかが変わっていたら交わっていなかった。私も裕二くんも思ってるよ。出会いは必然なんかじゃない。偶然で、奇跡で。上手いこと化学反応を出したからこうなってる」
「でも…一つは断言できる。どれを選んだ世界線の私だろうと、今の私より幸せなのはない」
当たり前を話すかのように口にする。
圧倒的な自信を持って断言をする。
その姿には強かさが見えた。その姿には幸福が見えた。
様々な姿が見える。しかし、その中でも特に目立って見えたのは……この場の少女達が見たのは、乙女の姿であった。
己らが見てきた恋する乙女よりも何段か儚く、何段か強かく。
自分の命全てを捧げても後悔しない程に恋をしていた。
「そんな由美ちゃんに質問。今が幸福の絶頂なんでしょ?それが逃げるとなったら、どうするの?困る?諦める?それとも…」
「死ぬまで粘着して追い続ける。人にとってはこれを独占欲が強いとか言うよ。でも、裕二くんは受け入れてくれるから…私は遠慮なく粘着できる。あなた達も、自分の全てを受け入れてくれる人と出会えるといいね」
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