第20話 お好きなものはなんですか
「なぁ、由美。お前が好きな料理ってなんだ?」
「うーん?私は祐二くんが作ってもらえる料理ならなんでも好きだよ?あんまり得意じゃないものでも得意にさせられちゃったからねぇ。強いて言えば…祐二くんが作ってくれるペペロンチーノとか?」
「そっか…じゃあ欲しい物とかは」
「祐二くんだけど。さっきからおかしいよ?普段はそんな事言わないじゃん。何か特別な日とかあったっけ」
「自分のでしょうに。覚えてないのか。金城由美、5日後はあなたが生まれた日でしょうよ」
「あ、あぁ……そういえばそうだね」
言われて思い出したかのように呟き、淡白そうに返事をする。
その姿勢に少しは呆れたものの、さっさと話を戻そうとする。
どんな人であろうと、どんな者であろうと。この世界に生まれ落ち、生を体験する。
わずかな時間であっても、生きた行いが善とは言い難くとも。
それには、とても意味のある行為だと思っているから。ゆえに、裕二は誕生日へと話を戻そうとする。
まあ、由美の無関心さゆえに、その苦労は一つの塵芥に化してしまったのだが。
欲しいモノと言える程興味が強い人間ではないのは知っていたが、ここまでとは思ってもみなかった。
あっても、学生らしからぬ代物ばかり。
どこの高校生が誕生日プレゼントにインスタントコーヒーを頼むのだ。その程度、普段からも買ってあげるというのに。
「んー、じゃあ適当に考えとくわ。由美が喜びそうなプレゼント」
「そうしといてー。私は裕二くんから貰ったものなら何でも嬉しいからさ」
そう言ってはくれたものの、裕二的には良いモノをプレゼントして思い出になって欲しいというのが本音だ。
どれを渡しても思い出になってくれそうではあるが、そこは男の矜持でカバーだ。
「絶対だ。絶対に最高の誕生日にしてやる!」
「ふふ、楽しみにしてる」
熱意の言葉に対して、淡い笑みで返す。瞳の奥にひっそりと期待を込めながら。
***
「という事で御教授お願いします」
「えぇ…」
「えぇ…」
「えぇ…」
最高の誕生へとする為、翌日に話しかけたのは三人。一人は友人である赤嶺陸。もう二人は陸の友人である
唐突すぎるお願い事に三人は困惑を露わにするが、陸は一番に事態を察知し、ため息を吐きながら聞く。
「金城さん関連だろ。だからって「という事で」で解決するのは極少数だぞ。俺がいるからって甘えないの。ちゃんと言葉にするんでちゅよ」
「心の底においておきます」
「ならよろしい」
「良いんだそれで……雨宮祐二、だっけ?君が何に困っているのか、僕と冴は分からないんでね。説明をしてくれるかな」
「あ、俺も良くわかんない」
「じゃあ分かったヅラすんなよお前」
陸が話をゴチャゴチャにしただけだと判明し、横二人から脇を叩かれている。
それに仲が良いのだな、と思いつつ。説明の為に口を開く。
「由美の誕生日が近い。それで本人に聞いたら何でも良いと言われた。終わりです」
「じゃあ何でもよくね?」
「「良い訳あるかぁぁ!!」」
この三人は殴り殴られの関係らしい。無神経な言葉を吐き散らかした冴の腹に二つの拳が衝突した。
中々にめり込んだのを見るに、相当な威力があったようだ。現に腹を抱えてうずくまっている。
そんな可哀想な冴を見て、陸は銀を窘めていた。どの面が言っているのだと思う心は間違いなのだろうか。
「うちの冴がごめんないさい。失礼な事を言いやがっちゃって」
「こちらが頼んでいる立場だから別に良いんですけど…まあ受け取っておきます」
「はいはい。それじゃ話を戻そうぜ。金城さんへのプレゼントなんだろ?金城さんならそのままの意味だろうから…祐二自身がもらって喜ぶ物を渡すとかどうだ?」
「うーむ、俺自身がもらって喜ぶものか。地域の地図かな」
「……一応聞いとく。何に使うんだよ」
「ハザードマップ」
一番欲しい物を問われたので答えれば、周囲からはため息の嵐が飛び通っていた。
そういう事じゃないだろ、と言わんばかりの視線が胸につき刺さる。
冷静に考えてみれば分かる話だった。推定華の女子高生が地域に地図を誕生日プレゼントにもらって喜ぶ話ではないのだ。
女子ウケもよく、祐二がもらっても喜ぶ物。それを三人は求めていた。
しかし、祐二は空気も読まずに自分の欲しい物を選択した。救いようのない人間だ。
そんな祐二に三人は頭を抱えているが、本人はのほほんと思考している今である。
「金城さんと祐二の欲しい物が重なり合う物がそれに当たると思うが?自分一人で解決すんじゃないよ。ほーらほら、君の事を好ましく思っている乙女を思い浮かべなさい」
「乙女…?あいつ乙女なの?俺以外に関しては心臓に剛毛が生えたかと思える程の強さを持っているあいつが乙女?」
「バカが……ある一つに対して乙女の面を持っているのなら、それは乙女しか言いようがないものになるんだ。理解できるか?」
祐二は他の面を見ていて言葉にしていたが、冷静に考えれば陸の言う通りである。
可愛らしく、愛らしく思える一面があるのなら、それは乙女しか言葉がない。
愛すべき女性でありながら、見えていなかった。
男として、何よりも恥ずべき事である。
「そんなに悔やむな。人間誰しも間違いはある。それでも自分を許せないというのなら、その罪を帳消しにするぐらい愛してやれば良いだけの話しだろ」
「陸…!あぁ、そうだな。分かんなくなってたよ」
良いシーンに見えるが、何一つとして進展していないのを本人は知らない。
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