第15話 まだまだ続くよ膝枕編

「あの…もうよろしいのでは無いでしょうか」


「えぇと、なにがですかねぇ。私には、さっぱり見当がつきませんよ。言葉が足らないので、分からないなー。私に意見したいなら言葉を持ってくるところから始めてね」


「うぐ、うぐぐ……な、なにもありません」


「それなら良かった」


言葉の意味を分かっているだろうと思わせる含みのこもった笑みであるが、裕二にそれを指摘する事は叶わない。

言葉にしなければならないい、という言葉は痛いところを突いている。

このまま指摘すれば、ドストレートの煽りが飛んでくるに違いない。

由美はする時はする。過去で一緒に過ごした一ヶ月の経験がそれを語っているのだ。


だからと言って、言葉にするのはアウトである。

この状態が長々と続けば羞恥でダウンしてしまうから、など口に出して言えるはずがない。

土下座という恥が生まれる選択をカードとして使用できる人間ではあるが、望んだものが耐えきれないから離脱しますは許可できないのだ。


それを知ってはぐらかしたのだから、今回のご褒美に関しては、由美が一枚上手であった。


「ふふ、お返しだよ。私をあんなに照れさせたんんだからね。このぐらいはさせてね。まあ、これに不満を思ってやり返してくれても構わないよ?できるなら、だけどね」


「この、煽りやがって。あんま男を舐めるんじゃ、ぁ。……!」


煽り言葉に反応し、活きのよい言葉を吐こうとしていた生意気な姿勢は止まる。

まるで衝撃的なモノを見つけたように硬直し、見るのを禁止されたものを見てしまったように勢いよく目を逸らす。


上を見つめ、目に入ってくるのは二つ。顔と、女性らしさを主張するような胸だ。

先程までは意識をしていたはず。ゆえに、何があっても上は見てこなかった。

しかし、上を見てしまった。面映さによる気の緩みか。先刻まで含羞の戦いをしていた為、煽り耐性が低下していたからか。

二つのどちらかかは分からないが、裕二が失態を犯したのは間違いない。


胸を見て反応をした事が気づかれていないのを祈るが、世界とは思い通りには動かないもの。

裕二を撫でる手つきは緩やかな代物へと変形をし。見る目は生暖かいものへと至った。


「私の胸見て反応しちゃったねー。友人に対してそんな反応を見せちゃうなんてさ……えっちだとは思わない?ねえ、えっちくん」


「うぐっ…えっちじゃないし」


「お母さんが言ってたよ。「えっち」って言われて、わざわざ「えっちじゃない」と返す人はむっつりだってさ。裕二くん、君はむっつりなの?」


どれだけ揶揄えば気が済むのだろうか。

揶揄いが飛んできたと思えば、次は更なる揶揄いが飛んできている。

一つ一つ丁寧に反応してしまっている裕二にも責はあるのだろうが、威力高すぎではなかろうか。


「むっつりじゃ、ない…」


「そっかぁ。ごめんね、裕二くん。そんな事ないって分かってたけど、揶揄いに利用しちゃった」


「…いや、俺も悪いよ。見え透いた由美の手のひらで操り人形になっていた訳だし」


「うーん、なんか刺された気がするなあ」


「気のせいだぞ金城由美」


「気のせい…そうなんだ…。それじゃ、気のせいなら気のせいらしく置いておこうかな。ではでは、改めまして、存分に体験してくださいね。私は今回の膝枕の為にミニスカート着てきたんだからさ」


思い返せば、玄関の扉を潜ってきてからそのような服装であった。

確かに脳内処理されていたはずだが、これから始まるご褒美に気を取られていたのだろう。

ミニスカートが好きと出会う時から公言しており、そんな裕二に気を配って着てきたのだろうに。

なんたる失態か。祐二がここ数ヶ月犯してきた失態の中でもトップクラスには大きいものだ。


自分の愚かさに歯軋りをしそうになるも、その行為は悪い事を自覚した子供を咎めるような質の手で止められてしまった。

まるで、己の過ちを悔いるならこの膝を堪能してからにしろと言わんばかりの。

頭を優しく膝に押し付けられ、否が応でも膝の感触を体験する事になる。


先程までは何故か生膝として意識しなかったから感想は出たが、生膝だと認識すれば感想が追いつかなくなってしまう。

もちもちとした柔らかい感触。それと伴うような、すべすべの感触。

どちらとも味わえる今は天国だが、それも長く続けば地獄へと移り変わる。


楽しめれば違うのだろうが、楽しみ勇気は裕二には存在してなかった。


「気が緩むかと思って言ったんだけどな…余計に体が硬くなっちゃった。むむむ、私はただ裕二くんに堪能してもらいたいだけなんだよ?それに、これはご褒美だ。楽しまなきゃ意味ないでしょ」


「楽しまなきゃって…それがどれだけ難しいか知らないから言えるんだろうが。どれだけ柔らかくても異性の上じゃ緊張しますぅ。緊張が分からない由美さんじゃ分からないと思いますけどねぇ」


「中々どうして酷い事を言ってくれるね。乙女のキューティーハートがグイって傷ついちゃった。責任を取ってもらわなきゃダメかも。……それでさ、私はこれでも緊張してるんだよ?初めて男の子を膝に乗る訳だし。私がいくら変人だからって恥ずかしがらない訳じゃないんだけどな。不安になったりするんだよ、ばーか」


「へぇ、そうなんだ。……ちょっと嬉しい。俺なんかでも緊張してくれるんだな」


「はー!喧しいよ。揶揄えるものがあるとすぐにニヤニヤするんだから。それを言える体力があるなら堪能しなさい」

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