第12話 祐二にはキツいよイチャイチャソウル
「うむ、作りすぎてしまった」
ハンドボールの簡易試合をしたその日、先に帰った祐二は料理を作っていた。特別の日でも何でもないが、作りすぎてしまっている男の姿があった。
体育の授業での口パクの言葉、それが日中から気になっており、料理をするときも例外ではなかった。
料理するときにその思考は危険だと思い、忘れて料理に没頭していたのだが仇となったようである。
絶対に1日では食い切れない量を作ってしまった。
祐二と由美が成長期であるという事実を込みしても、食い切れないと断言できる量。
祐二の脳内はすでに後悔と反省でいっぱいであった。どんなシュートでも顔面以外は止めていたGKの力は発揮しなかったようだ。
「はぁ…金城、さっさと帰ってこねえかな。料理はもう作り終わったし、後は待つだけなんだがなぁ。帰るって送ってから20分は経ったからもうそろそろ帰ってくると思うんだが……うげー、緊張で吐きそうになってくる。そこまで緊張するべき内容じゃぁ無いんだろうけど、無いんだろうけど……!」
理屈では理解していようとも、心臓はこれからを考えたらバクバクと高鳴ってしまうのだ。
鼓動が早まるのはなぜだろうか。血流が普段よりも速く体に循環され、未来に対して思う心があるのはどうしてなのだろうか。
今の裕二にそれを解き明かす術はない。どれだけ理論で説明しようとしても、知識にないものは言葉にできないのが道理。
経験や慣れがないので、致し方ない事ではある。
そんな裕二が現在できる事としては、料理が冷めないうちに帰ってくる、それを期待するのみであった。
そんなこんなの思考を抱いていれば、現実はすぐさま迫ってきた。
玄関からチャイムの音がする。由美と出会う前は基本的に一人であった為、聞きなれない音だった。
過去形なのは、由美と知り合ってから聞き慣れるようになったからだ。
そのような聞きなれた音を耳から受け取り、心臓の鼓動を先程よりも速くさせつつ、裕二は玄関に向かって扉を開く。
少々の荷物を背負い、私服でやって来た由美に驚きを感じながらも、家内へと誘い込む。
料理が完成していると告げれば、由美は喜びながら廊下を走っていく。
危険だから歩けば良いのに、と喜ぶ姿勢を微笑ましく見ていたい、という思考が裕二の中には発生していた。
その二つに悶々としているが、由美はそんな気持ち知ったこっちゃないと言わんばかりに料理へ瞳の輝きを寄せる。
自分の料理へ期待を感じてくれるのは嬉しいと感じてしまう為、余計に悶々としてしまうのだ。
「ふふ、これ豪華だね。普段も色々なオカズとかで色鮮やかだけど、今回はその普段よりも様々なものがある。私と雨宮くんの誕生日でもないし、これはただの気まぐれ?それとも、ご褒美の件で期待しちゃって、作り過ぎちゃったの?」
見透かしたような顔から入る言葉。それは表情と同じくして裕二の感情や行動を見透かしていた。
その事実が、その現実が、裕二の精神に驚愕と焦燥が更に上から重なったのだ。
…いや、それだけではない。感情と行動を当てられた事さえも気にさせず、惑わして誘惑するような笑みを同時に浮かべていたのだ。
心臓に更なる息が舞い込んだ。
「やっぱり、顔赤くなった。前々から思っていたけど、そっち方面弱いよね。普段は飄々としてクールを貫いてるけどさ、私と絡んだり私が揶揄ったりすると赤くなっちゃう照れ屋だし。女の子と絡んだらこうなっちゃうのかな。それとも、私が絡むからこうなるの?ねぇ、教えて?雨宮くん?…いや、裕二くん」
「かねしろ、だけ、だよ。俺がこうなる相手、金城だけだ。それ以外なんて、いない」
「そっかぁ、嬉しいな。私、裕二くんにとっての魅力的な女の子になれてるって事だよね。でもさあ、だったらもう一声欲しいよ。私は他の女の子より一つ大きな存在なんだよね?だったら名前呼びをしても良くない?」
一度は飲み込み、目の前の者と向かい合おうとしたが、由美の次の言葉に完全なるKOを受けてしまった。
それはまるで溺死。流れ、押し寄せてくる
その現実に歯軋りをしようとするが、いつの間にか不可の存在へとなってしまったらしい。
由美の体から漂ってくる魅了する色気に呑まれ、拒否や拒否に近い思考すら拒まれていた。
理性すら…いや、理性が望んでいるのだ。この桃色で、居心地が良く、どこまで溺れても許されるような海にいたいと。
「雨宮くん、返事はどうする?」
侵食するような毒の笑みを浮かべている由美は、表情だけでは足りないようだ。
毒によって困惑、驚愕、
それは答えを急かされたようで、祐二は覚束ない言葉で答えるしかなかった。
「ゆ、み…」
「…!嬉しい。本当に言ってくれるとは思わなかった。祐二くんだからそれらしい事言って逃げるかと思ってた」
「にげ、ないよ。ゆみ、だから」
「ありがと…。あとでご褒美たくさんあげるから」
これがご褒美じゃないのかと祐二は思考を抱き、耐えられる訳がないと嘆きも抱いた。
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