第11話 ゴールキーパー、後へのご褒美

「不服そうだな」


「当たり前だろ…お前が俺をゴールキーパーに指名したせいで大変なんだぞ」


「事実としてハンドボールじゃ適任だったろ。バンバン止めてくれるから俺達は遠慮なく攻めに行けるんだ」


「お前さぁ…真正面から来るボールを受け止める俺の身にもなってくれよ。顔面にボンボン当たるから痛いんだわ。試合じゃ二分の退場だからな、分かってんのか」


「し〜らね」


体操服を身にまとい、キャッチボールをしながら雑談を繰り返している人が二人。

一人はバスケ部やらトレーニング部やらのパワー強い組のボールを毎回しっかりと受け止めているゴールキーパー、裕二。

もう一人はそうなる原因を作った者であり、授業では管理塔とも言われるセンターの位置にいる陸。


そんな二人はハンドボールの授業という事もあり、話の内容はハンドボールのものだ。

とは言っても、その内容は一人に一方的な愚痴を言う代物ではあるのだが。


「まあまあまあ。ハンドボール話は一旦置いておきましてと。あの人との関係はどうなってんですかねぇ」


「赤嶺陸さんヨォ、俺と金城はそんな関係じゃねえですよ。ただの友人を貫いてます……今のところはね」


「おろ?おろろろろ?もしかして?脈って全然ある感じ?」


「知らねえよ。俺は恋情を抱いた事が全くないもんでしてねえ」


パスにしては少々速い速度で投げてくる陸に舌打ちをしながら、そんな速度で投げるからクロス時のプッシュパスも失敗するなんて事も思いつつ、裕二は質問に答える。

ここで含みのある発言してしまった事によって邪推が深まった気がするが、それに後悔はしていなかった。


金城由美という人間に興味を抱き、今より更に知りたいと考えているのだ。後悔なぞ、ある訳がないのだ。


「いやはや…裕二くんが成長してくれて俺は嬉しいですわよ。およよよよ」


「お前は誰目線で涙を流しているんだ。友人という立ち位置にしては不思議を感じる言葉なんだが。どちらかと言えば保護者を感じるし。俺とお前ってただの友人だよな?」


「はぁ?友人に決まってるでしょうが。全く、この人は何を言っているのだかねえ。裕二と俺の関係は友人だ。それは当たり前だぞ。ソースたっぷりの焼肉定食並には当たり前だぞ」


「うわっ、ソースでベッタベタじゃん。嫌だよ友人との絆が焼肉ソースでベタベタになるの」


「いや、いやいやいや。もしかしたら焼肉ソースで友人との絆が長持ちさせているかもしれないんだぜ。焼肉ソースってお前の言った通りベタベタだろ?だからそれが粘って…な?」


「な?じゃねえよ」


さらっと気色悪い事を言った陸にわざとらしいえずきを聞かせつつ、裕二はボールをドリブルさせながら先生の方向へと向かっていく。


「ん?どうした」


「多分もうそろそろ笛が鳴る」


『ピー!』


「お前ら、そろそろ試合だ。集まれ!」


「ほらね?俺の言った通りだったでしょ?」


「その妙な察知能力は何なんですかねぇ…」


「さぁね」


祐二の言葉に陸は呆れたようにため息を吐くが、祐二にとってはそれ以外言いようがないのだ。

昔は父親を追いかけていた時、たまたま偶然獲得したに他ならない。なぜ獲得したのか、その察知能力が何なのか知らないと言うのに、説明白と言うのは無理な話なのだ。


***


「あー、顔面痛い。サイドのやつ思いっきり撃ちやがってよぉ」


※ハンドボールのサイドとはゴールの真横のポジションであり、真正面ではなく斜めからのシュートを打たなくてはならない。ゆえに、GKへの顔に当たりやすいポジションでもある


「なんか説明が入った気がする」


「何言ってんだ」


「分かんね」


第一の簡易試合を終えた陸は意味分からない発言をしたクラスメイトにツッコミ、祐二は相手チームのサイドに延々と愚痴を言っている。


数分が経っているにも関わらずヒリヒリしている頬を抑えつつ、ボールを打ってきたサイドを恨みを持って見ていた。

それに戻ってきた陸が宥めているが、祐二の怒りは収まる様子を見せない。


「あんま粘着してると女子から嫌われんぞ。金城さんからも」


「ハイ…すみません」


「うーん…犬の躾ってこんな感じか。俺犬飼ってみようかしら」


「俺を犬として見るのはやめてくれ」


口からは苦々しい言葉を送るが、祐二の顔にはその表情が映ってはいなかった。映したいところではあったが、その余力がなかった。

ボールの為に体育館を走り回った訳ではないが、相手チームから執拗に顔面へとボールを叩き込まれれば疲れるというもの。

好きな人と男が絡み出したら荒れてしまう気持ちも分からなくはないが、実害を出すのは違うのではなかろうか。


関係を深めようとしているのを察知して焦っているのかもしれないが、好きな女を得る為の勝負なら色でしてもらいたいものである。

ため息を吐きつつ遠い目をしていれば、上からボールが飛んでくる。近くにいるのは陸しかいないので、十中八九陸の手によるものだろう。

心に呆れを抱きつつ起き上がれば、陸は人差し指である方向を指していた。


それは女子たちが体育の授業をしている場所であった。


『頑張ったね。あとでご褒美を送ってあげる』


口パクだが、確かにそう言っていた。


「どうだ?」


「頭焼けそう…」

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