第10話(閑話) 教会会議

「さてと……お久しぶりになりますね。ミニスカート教の皆様」


「あぁ、久しぶりになるな。明日協会会議するって言ってバックれた教祖様よ。あんたは黒泉教と協力関係があるから無しにしたがな、さすがに一ヶ月は違えだろ」


「はい…申し訳ないと思っています。ですが、それなりの事情があったもので」


「へぇ、可愛い女の子とイチャイチャすんのはそれなりの事情に入るのか?」


「入りますね」


ミニスカート教の心臓部、黒沢順次くろざわじゅんじに呆れの視線を交えつつ言われるが、裕二は即答で通す。

大人であれば即刻叱るレベルであるが、現在の対象は高校生…まだ子供である。

まだ青春を楽しみたい子供に望んでいない業務を強いるのは鬼畜の所業。

このミニスカート教も父親から押し付けられた宗教がゆえ、強く出る事はできないのだ。


とは言え、失態は失態。順次は大きくとはいかなくとも、それなりに叱るつもりであった。

…そう、裕二の姿を見る前はそう思っていたのだ。おちゃらけた言葉で飾りつつも、本質は以前とは全く違う。

反省の心を胸に留めながらも、持ち得る精神性は以前とは別物。

人を信頼する上で、人を信用する上で、そんな二つの中で最も大事なものが欠けているのが以前の裕二であった。


しかし、今はそれを持ち得ている。安易な言葉で言い表すとしたら「一皮剥けた」だろう。

だが、それは今回に適切な表現とは言えない。


言うなれば…"漢がついた"と言うべきだろう。


女性と交友関係を持ったからか、初めて同じ歳の友達ができたからかは分からない。

その分からない状況の中で、順次は前者だと思っていた。根拠も何もないが、同じ漢としての勘がそう言っていた。


「教祖様ヨォ…いや、祐二。数日前にな、お前とあの子の事をちらっと見た。随分と仲が良かったな。だから聞こう。雨宮裕二、お前はあの子が好きなのか?」


「親父に言うって訳じゃ…ないみたいですね」


「当たり前だ。これは俺個人としての質問だ。一人の漢として聞いているんだ」


「好きかどうか、ですか。どうなんでしょうね、どう思っているんでしょうかね。ただ、何一つ間違いないのは、俺はあいつに感謝をしているという事です。どうしたら返し切れるのかも分からない恩を受けて、救われました」


あまりの直球すぎる言葉に目を丸くする。そして、それは順次だけではない。他のミニスカート教の幹部メンバーも等しく驚いていた。

思いや感情を真っ直ぐ言葉にして発するのが雨宮裕二ではない。

ミニスカート教の幹部メンバーだろうと、それは偽りない。

理屈をこねくり回し、論理で動く。


起業家である父親に見捨てられない為にできた悪癖であると、周囲は認識していたのだ。

事実、そうであった。ただ、変われただけである。


「現段階では恋心はないのは分かった。だが、ただの友達で突き通す気はねえんでしょう」


「やっぱりバレますよね…。初めての友達、それに何の感情を抱いているのか、俺は知りたいと考えています。あの人の色に染められた俺は、あの人の原色にどうしようもなく惹かれている。その心がどういったものなのか、俺は知りたい。それが今の俺の本音ですよ」


祐二の言葉に2度目の驚き…はなかった。このような遠回しな言葉の使い方は普段の祐二である。

強いて驚く内容をつけるなら、言葉の内部に含まれている意味だろうか。他人を求めなかった祐二が他人を知りたいと思うようになった。

その現状には確かな成長を感じれる。幼少期から見てきた幹部メンバーからすれば感激で涙が漏れそうになってしまう。


全員例外なく嬉涙を堪えようとする幹部メンバーに少々引きつつも、祐二は優しい顔で貫く。

それが親心を実の父親の代わりに持っていた幹部メンバーに刺さる。ツーパンKOである。


「うぐっ、あんなクソ野郎からどうしてこんな良いこが…」


「やめろォ。んな事言うもんじゃねえ。全くの事実であるがな」


「順次さん…それも言うべき事ではないと思いますよ。あのクソ親父は父親として大減点クソ野郎と言うのは皆様も把握しています。今更口を大きくして言う内容でも無いでしょう」


「わァ、大人だ。あの人の自分を突き通しまくる性格とは大違い」


祐二が成長するのとは反比例して保身が高くなっている黎斗に対して文句がどんどん飛び出るのを祐二は苦笑いしながら見守る。

育ての親的な存在であり、普段から扱いの雑さもあって言葉の毒がとんでも無いくらいに高まっている。


普段から温厚な幹部メンバーが怒りを表に出す程クソだったのか、と思いつつ机に乗ってあるお茶を飲み干す。


「俺の言えた事じゃねぇが、怒気はあまり出さねえ事をオススメすんぜ。まだジュクジュクに腐った社会の現実を全部認識してない高校生に話すには酷だろう」


そのような怒りを止めたのは順次であった。それに意外などはなく、幹部メンバー達は矛を沈める。


「あの人の事よりも、今は祐二の想っている人の話をしようじゃねぇか」


「は?はぁぁぁぁあ!?違いますけど!?恋情を抱く程に熱くて重い気持ちじゃありませんからね、これは!気のせいです、勘違いです、思い違いです!」


「まぁまぁ」


「いやいやいや!それで流そうとしないでくださいよ!」

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