第7話 水族館は人気スポット
「えーっと、多分ここいらだと思うんだが」
「あー!見て見て!大きい水族館がある!緩いフォントで『すいぞくかん』って書かれてるけど、大きさが釣り合ってないよ。ひえー、私の知っているどんな水族館よりも大きいよ」
「まぁ……ここら辺の中ではトップレベルに大きいのは間違いないな」
最初の一件は水族館。由美発案で、「魚さん達を見て癒されよう」という事のようだ。
裕二は水族館に行って退屈に感じるタイプではないので、遠慮なくオーケーを出した。というか、裕二は水族館が好きなので、オーケー以外の選択肢はなかったのだが。
心に期待をのせつつ、自分よりも更にワクワクしている由美に対して微笑みながら歩く。
ルンルンで歩いている由美は、数歩進んだ瞬間に「はっ」と声を上げた。
何事かと思い、困惑気味で問い掛ければ、裕二にとっては、苦痛なのか嬉しいのか分からない地獄がやってきた。
「手を繋ご!逸れるかもしれないしね」
「そっか……うん、分かったよ、うん」
果たして、裕二の精神はこのデートが終わるまで耐え切れるのだろうか。
***
「へへ、うへへ。お魚さん可愛いよ」
「あぁ、スースー泳いでて、気持ちよさそうだ。こんだけ綺麗に泳げたのなら、どんなに心地良いのやら」
「うーん、雨宮くんの言っていることは良く分かんないけど、可愛いよね!」
良く分からないの言葉にムスッとした感情を心に置きながらも、魚の可愛さには同意の頷きをする。
「おぉ!あっちにはクラゲだって。クラゲってフワフワして魚とは違う可愛さがあるよね。クラゲが好きな女子は多いんだ。私には分かるよ」
「俺にも分かるんですけどねー」
「そうなのぉ?まあ、雨宮くんなら分かるか」
「何なんだよ、その評価は」
「何なんだろーね。信頼?」
どのような信頼から「雨宮くんなら分かる」という評価になるのだろうか。
それにだ。一週間しか関係はないと言うのに、どんな信頼を形成できるというのだ。
その感情から、馬鹿な事を言い出した由美の額を人差し指でゴリゴリと削る。
「ひゃー」と嬉しそうな悲鳴を出しているのは、戯れ合いと認識してくれるからだろうか。
「私も、こんなクラゲみたいに輝いてみたいな」
「俺にとっちゃ、お前はもうこのクラゲより輝いているけどね」
「それ、口説き文句ー?あんまり臭すぎるのは女の子からは悪印象を与えるからね、注意した方が良いよ」
「口説き文句じゃない。俺は本当にそう思っているだけだ。俺に友人を教えてくれたのはお前だからな」
「もうさぁ…そういう事言うの、ズルって言うんだよ」
由美は繋いでいた手をほぐし、祐二の服を掴む。強いとは言えない力で服を掴んだ由美は、上目遣いで祐二を見る。
誰がどう見ても赤面している顔。どれだけ詭弁が上手でも、弁解ができない程に赤面している顔。
本音からの言葉であった為、そこまでとは思っていなかった。故に、由美の赤面に反応ができず、固まってしまった。
そんな固まってしまった体に、由美は頭を思いっきり寄せる。言葉によって生じた照れを隠せれるように、先程とは違う強い力で押しつけられる。
固まった体に由美を払う力はない。公共の場でありつつも、数秒は驚きで放心してしまっていた。
数秒が終われば由美は顔の熱は冷めていたが、祐二の顔は新たに熱が現れていた。それはまるで、熱を移されたようだ。
目眩が出てしまうような熱さ。それは、まともに女性と絡んでこなかった祐二にとって、猛毒にも等しかった。
「どこが、だよ。俺のどこがズルい。お前の、金城の方が、余程ズルいだろうが」
「え、私?私のどこがズルいのさ。たーだ落ち着くまで雨宮くんの体で冷やしてもらっただけですよ」
「その動作が可愛い過ぎてズルい。友人にやるものじゃない。ギルティのギルティ」
「それって私の事、可愛い女の子として見てくれてるって事?」
「そうだよ。というか、最初から言ってるだろ。綺麗とか、可愛いとか」
「そうだっけ〜?」
可愛いと言い始めてから調子に乗り始めているが、今の祐二にそれをどうにかする気力はない。
デートが始まった時から精神をゴリゴリと削られ、子供っぽいところも色気があるところも見て悶えていたと言うのに、あれでぶん殴られ、ダウンしてしまった。
「足りないなら言ってあげよっか。可愛い、綺麗」
「え、ちょ、雨宮くん?そういうの、よくないなーって、思っちゃったり」
「今日さ、初めて見た時雷撃が走ったみたいだった。表情隠したけど、びっくりしたんだ。結構人を見てきたと思っていた。その中でも、初めてだったんだ。女の子を姫のように美しく感じたのは。これ、全部本音だから」
「ど、どういう神経をしてたらそんな言葉を吐けるの!ここ、公共の場だよ。大勢の人がいる水族館なんですけど。羞恥は、他人に聞かれる羞恥はないんですか」
「あんな事を言っている教祖ですからね。他人に聞かれる事の羞恥はねえんですよ、このばーか!あと、もともとの原因はあんたやろがい!」
「ぐぬぬ」
「何がぐぬぬだ。元々の原因はあなたでしょうが」
祐二の頭の中にはないようである。臭いセリフを吐いたのも要因になっている事に。
そしてだ。祐二は気づかない。遠目で二人を微笑ましく見つめている者が二人ほどいる事を。
「イチャイチャしてんな〜」
「してんな〜」
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