第6話 友人になる為のデート、なお友人とデートをするなど中々ないというのは置いておく

「はい、はい。分かりました。ええ、生活できているのは仕送りを送ってくださる黎人様と尊様のおかげに他なりません。ありがとうございます。この恩は一生忘れません。はい、分かっています。いずれ……では」


デート前でウキウキしていた裕二に届いたのは、人間不信の原因ともなった父親からの連絡だった。

高校生になり、連絡が増えてきた。しかし、その連絡で増えていくのは、感謝ではなく嫌悪だった。

自分の地位ばかり気にし、子供にはなんの意識も向けない。血の繋がった他人だと思っているのだろう。


昔からそうだ。構ってもらった事なんてない、教えてもらった事などない。

親としての一面は生まれだけであり、育ての面はそこいらのゴミ箱に投げ捨てている。


その事実に歯軋りをたてようとして、チラチラと周りを見ている由美が目に入った。

そういえば、と思い出す。由美はここいらに来た事は数えれる程度しかなかったはずだ。

自分が案内すると約束をしたのに、それを一時だが忘れてしまっていた。


少しの反省を思考に織り交ぜつつ、少々困っている由美へと歩いて行く。


「やっ、困ってる?」


「あぁ!雨宮くんじゃん!どこにいたのさ、私めっちゃ探したんだからね」


「悪い悪い。ちょっと見つけにくい場所だったかもだわ。困らせてすまんな」


「ほんとだよ!オタンコナス超えてたこ焼き野郎だよ!」


「うーん、それは何を言ってるのか分からんけど……金城、綺麗……だと思う」


「最後まで自信を持ってよ!?」


最後まで自信を持って金城由美という人間の事を綺麗だとは思っているが、怯みが出た。

ドストレート、ストレートパンチぐらい真っ直ぐに「綺麗」と言葉を吐くのが億劫になったのだ。

そのせいで由美に対して失礼な物言いになってしまったのは反省するべきである。


ここ数分で反省するべき事が二つあるのはどうなのだ、と思いつつ。裕二は目の前の、可愛らしく、綺麗とも感じれるお洒落をしている由美を見る。

ミントグリーンのトップスに薄茶のチュールスカートを着ている。服だけでは説明つかない色気から、化粧もしてきているのだろうか。


高校では化粧禁止であるのに、ここまでの上手い化粧を見せるとは……裏で練習をしていたのだろう。

女子の美しさを求める思いは凄まじいと言うべきか、美しいと思ってもらいたいという思いが強いと言うべきか。


そんな思考に到達し、ちょっとの意識が芽生え始める。

まあ、「そんなもんだわな」と速攻で消えてしまったのだが。


「ごめん、綺麗だよ。とっても」


「ふふん、それで良いのです」


***


「ちょっと眩しかったね。そんな時に役立つのはこれ!てってれーん、サ・ン・グ・ラ・ス!」


「それはそのさっきで出すべきだと思うんだが」


「言われてみれば……もう少し早く言ってよー!」


「えぇ……」


デート計画で予定していた最初の一件へと行く前に、裕二と由美はアイス屋へと来ていた。

集合時間は10時であり、育ち盛りの高校生が小腹を空かせるのは明白。

という事でのアイス屋だ。とは言っても、裕二にとってはもう一つの意味を含ませたものになるが。


それは休憩をしたかった、という事。もちろん、ただの体力不足での休憩ではない。

裕二は中学生時代から教祖として、長期休みでは全国に教徒を増やす為に奔走していた。

ゆえに、裕二は帰宅部と比べたら体力はある。デートで歩き回っても疲れない体力もだ。


ならば、休憩をしたい理由はなんなのか。それは…。


(あー、近い。本当に近い。ゴリゴリに近い。距離感バグってんだろ、どういう生活をしたら友人(仮)の体にあんなくっ付けるんだ。というか、胸が当たってただろうが。ちょくちょく指摘しても「いーではないかー」と言って躱してくるし。お前は一昔前の官僚か)


そう、由美の距離感が近すぎるのだ。

休日であるがゆえ、人が大勢存在している。だからある程度近いのは、想定の範囲内だった。

しかし、あれ程まで近いとなると、想定の範囲など余裕で飛び越えてくるのだ。

いや、飛び越える云々の話ではない。想定の範囲内ごと壊されたのだ。


由美は女性友達と接してしているのと同じ感覚なのだろうが、祐二は異性として意識し掛けの状態だ。爆弾なのは誰でも分かる。


「なぁ…少し近すぎないか?」


「うーん、そうかなぁ?私、友達とはこの距離で接してるよ?だって、同性だよ?気にする必要、なんて……ごめん」


祐二の心をガンガン削っていた由美は、ようやく気づいたらしい。

己らが異性同士の友達だという事に。異性でここまで距離が近いのは、特別な関係だという事に。

その事実に直面したからか、由美の顔は真っ赤に染まっている。

それに内心で100回ぐらい同意しつつ、現実ではアイスを頼む。


「ほら、アイス食べるだろ。アイス、来たぞ。小腹空いてたんだろ?」


「うー、食べるぅ。…美味しい」


「良かったな。んむ、本当だ。美味しいなこりゃ」


「え、本当!?そっちも食べてみたい!」


「しゃーねーなー。そっちのもくれよ?」


「うん!」


くっ付くのはダメで間接キスはOKなのか。周りの客と店員は訝しんだ。

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