第5話 お介護必須JKによる直談判
「雨宮くん。雨宮くんには足りていないものがあると思うのです。それが!なんなのか!分かる!?」
「どうした、そんなキレ気味に言って。なにか不満な点があったか?……あぁ、デザートに出すって言ったチョコプリンを出してなかったな。すまんすまん」
「それも気になったけど!そっちじゃないよぅ!」
「ん?食べたくないのか?」
「食べるよ!」
怒ったり困ったり焦ったり。随分と忙しいなあ、と思いつつ。
出されたチョコプリンを美味しそうに頬張る由美を穏やかな視線で見つめる。
チョコプリンを口に含み、美味しさに頬に手をやり、戦慄したような表情を見せ、またチョコプリンを口に含む。
陸や理亜には裕二が猫っぽいと言われたが、裕二から言わせれば由美の方が猫に近しい。
警戒心の高い猫、という意味ではなく、少しチョロい飼い猫に。
だから、裕二は色々と甘やかしてしまうのだ。このままでは料理のスキルが身につかないと知っていても、この表情を見てしまえば、また忘れて甘やかしてしまう。
初めての友人だから甘やかしてしまうのだろうか。それとも、別のなにかが…。
(まあ、今の俺が気にする内容でないのは確かだな。身を焦がす火炎の恋情、っていう訳でもないし。今の俺がすべき事は、できる限り金城を甘やかす事かな?)
「金城、まだまだチョコプリンあるけど、いる?」
「いる!…って、そうじゃなーい!私が言いたいのは、チョコプリン云々の話じゃないの。一昨日に雪乃宮さんと赤嶺くん、二人と昼食食べてたじゃん。その時、私と食べるよりも楽しそうに見えたの!」
「そんな事ないと思うけど…」
「そう、なのかな。私の勘違い?でも、私に向けるものとは違う笑顔を向けてたよ?」
「あー、一番親しい友人枠だって思っていたけど、違う可能性が出てきて不安になっている訳だ。まあ、そこまで気にすんなよ。タイプが違うだけの顔だ。お前が、金城が1番の友達ってのは変わりないからな」
「ありがとう。ちょっと嬉しい。仮の友達だから変な感じするけどね」
少々恥ずかしいセリフを言った事で忘れていたが、裕二と由美の関係は仮の友達である。どんなに料理を作っても、弁当を持たせても。裕二と由美の関係は仮の友達である。
その事実が急速に頭に入り、裕二の心には猛烈な羞恥が襲いかかっていた。
由美が寂しがっているとは言え、言うべきではなかった。言うとしても、もう少しマシな言葉もあっただろう。そんな後悔と自虐が思考の端から端へと浮かんでくる。
飲み込むにしても、その前段階の噛み殺す作業ができていないのだから、無理な話。
ゆえに、裕二が目の前の由美から目を離すのは致し方のない事だ。
「ちょっと、そんなにガッツリ別方向を向かなくたってもよくない?私は嬉しかったんだけどな。人なんて信じない、友達なんて作らない、そんな事を言っていた雨宮くんが私を友達認定してくれた。それも、一番親しい人だった。赤嶺くんや雪乃宮さんも友達として作ってくれたしね。私が変えちゃったという達成感があるよ。まあ、1週間ちょっとで変わっちゃったのはチョロさが不安になるぐらいだけど」
「だからさ、そろそろ更新しよ?更新して、本当の意味で一番親しい友達になろうよ」
「…考えとく」
「えぇ!?」
輝かしい提案だった。陰鬱とした己を変えてくれ、高校生らしい楽しさも見出す事ができた。
知らなかった未来を自分の代わりに開拓してもらったのが金城由美という女性だ。
そんな人と本当の友人になれたのなら、さらに光り輝くだろう。
だからこそ、雨宮祐二という男は拒否をするのである。
未来を、可能性を開拓してもらって、その上で真の友人になろうと提案された。
その状況で、その現状で……友達になったとしても、裕二は胸を張って立てるだろうか。
本当の友達であると、友情という絆によって形成されている仲であると、言えるだろうか。
いや、言えない。裕二は面倒くさい男であるから、言えない。
「来週だ!来週の土曜日、友達としてデートをしよう!俺は、友達として何かをしていないのに友達となるのは嫌だ。だから、デートをしてから友達になろう」
「うーん、この面倒くささは未だ健在かー。教祖の時より性格は穏和になってきたんだけどなー」
「うぐっ……すみません」
「謝らなくて良いよ。私……雨宮くんのその面倒くさいの、大好きだもん」
いきなり心臓に一突き、というのは辞めてもらいたいものである。
由美に対してはその気がないのに、鼓動が大きくドクンと跳ねてしまう。
男の人間というものは至極簡単な生き物なのだ。大きな大きな恋情も抱いてはいないが、それっぽい発言をされてしまえば、常に意識を向けてしまう。
由美という人間は男の愚かしさを分かっていない。
「雨宮くんってデート分かる?」
「そりゃあ分かるぞ。デートってのは逢瀬や逢引きを指す…」
「そういう意味じゃなくてさ。デートの内容とか考えた事ある?……無さそうだね。しょうがないなー、私が一緒に考えてあげるよ。友達だもんね」
「ありがとうございます…どこからどこまでお世話になってしまって」
「お互い様でしょっ!」
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