第4話 黒い蜜は白雪と夏季が寄ってくる

「一人寂しくお昼ご飯ですか〜?俺たちも誘ってくれよー。俺とお前、友達、だろっ☆」


「だろっ!」


「はー……今日は妙に雑音がうるさいな。セミが泣くのはもう少し後だろ。今六月ぞ。夏になんのはもう一ヶ月経ってからだぞ。せめて六月後半まで待てよ」


「「誰がセミじゃぃ!」」


四時間目が終わり、早々に弁当を開く裕二の側に二人が寄ってきた。

この二人、実は由美と仲良くし始めてから話しかけられ、由美と同じ友達になろうと言われてしまったのである。

由美とも本当の友達ではないのを主として、様々な理由で断っているものの、それでも執拗に話しかけられる。


金城といい、裕二といい、この二人といい、この学校には変人が多いのだろうか。


「はぁ…食べたいなら勝手にしろ」


「おぉ!サンキューな!」


「サンキューな!」


言葉の声量を大きくして返事をするカップル、雪乃宮理亜ゆきのみやりあ赤嶺陸あかみねりくに舌打ちをしつつ、近くにある机を寄せてスペースを確保する。


「毎度ながら、裕二って美味しそうな弁当作るよな。自前?」


「市販の弁当を買うより安く済むからな。一人暮らしをしているのなら、節約は大事だぞ」


「りーくんが言いたいのはそうじゃないと思うよー?家事とか全部一人でやって、その上で朝早く起きてお弁当を作る。それってすごく大変だよ。私もお弁当二つを作っているからよく分かるよ」


理亜の言葉に両目をパチクリと瞬きをし、少ししてから「あー」と声を出す。

最近というか、ここ十数年は自生活に口出しをしてくる人がいなかったので、何も思わなかったが、通常で考えれば忙しいはずだ。

なら、結構な頻度で二人がすごいすごいと言っている理由が見えてきたかもしれない。


交友関係というものは良いものかもしれない。凝り固まりそうになっている思考を時たまにほぐしてくれる。

そんな考えが脳裏に通った瞬間、祐二は全力で否定をする。

友人としては拒んでいた二人を友人として認めようとしていた。危ないところだった。油断も隙もない。


「俺さ、最近裕二が猫に見えてくるんだよ。警戒して威嚇する姿、猫が威嚇する姿に似ているというか」


「あ!分かる!」


「分かんな!俺は猫じゃない!」


随分と失礼な事を吐く二人である。どこが猫が威嚇する姿に似ているのだろうか。

この怒り方、どう見ても人間でしかない。100の人間が360度見ても、「この怒り方は人間だ」と断言するレベルである。


「その100人極少数だろ」


「はーひど、あーひど。これは傷つきました。後でジュースを奢ってもらわないとこの傷は消えません」


「それジュース奢って欲しいだけだろ。それで?それは」


「ペプ◯よろ」


「へいへい」


某コーラを奢ってもらう事が確定し、上機嫌に鼻歌を歌いながら弁当を口に運ぶ。

いつも節約ばかりしているから、ジュースを買う贅沢なんて滅多にない。

なので、お久しぶりジュース兼炭酸飲料という訳だ。テンションが上がってしまうのも致し方ない。


これなら、どんな質問が来ても答えられそうなくらいだ。


「そういえばだが、金城さんって最近顔色良くなってきたよな。裕二、何か知ってるか?割と仲良かったよな…って、裕二?大丈夫か、手が震えてるけど」


「い、いや、なんでも…」


「その顔はなんでもなくない気がするが。俺の気のせいか?」


祐二にとって、気づいてはいなかった境界線。祐二にとって、気付かされた境界線。

それに、祐二は冷や汗を抱いていた。どれだけ友人と言い張ろうとも、弁当を作って渡す関係は普通ではない。

前に邪推されるのは嫌だろう、と由美に言った祐二であるが、その祐二が一番邪推される原因を作っていた。愚かである。


そんな自虐を思考に含ませつつ、本格的に考える。どうすればこれを誤魔化せるのか、と。

自分が原因とは言え、面倒になる要因はあまり増やしたくないのが本音。ただでさえ、由美と友人というだけで妬みが飛んでくるのだ。

由美に料理を作っている、という情報が渡れば激怒に至るのは容易に想像可能である。


その現実、どうしたものかと頭を悩ませていれば、陸から待ったが入る。


「それは言わなくていい。察しがついた。


「…良いのか、それで」


「大丈夫だ、それで構わない。安心しろ、俺は言わないよ。祐二の唯一の男友達として約束だ。胸張ってもバレないようにしてやる」


サムズアップをし、良い笑顔で言葉を送る陸の姿に口角を上げつつ、サムズアップをしている右手をはたき落とす。

陸はそれに「ちょっ!?」と情けない声を漏らすが、正当である。むしろ、これで済ませた事に感謝を述べられたいレベルである。

散々言われたのをはたきでチャラにしているのだから。


「そりゃそーだけどよー!感動の場面だったでしょうが。もう少し加減をしてもらえないですかねー!」


「感動のシーンとか、自分で言うもんじゃないだろ。あと、加減する程の仲ではないからな」


「あー傷ついた。本当に傷ついた。これはペ◯シなしにしなくては」


「はぁ!?それとこれとは違うでしょうが!」


「いーや、同じだねっ!」


「やれーやれー!りっくん頑張れー!とっくみあいだー!」






「なんで、楽しそうなの。雨宮くんの、ばか」


二人の戯れあいを見て、頬を膨らませる黒髪の女性がいたとか、いないとか。

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