第3話 生活習慣が悪すぎるJK

「ポン酢と醤油、酒。味噌汁用の豆腐も買ったし、日曜日に食べるフランスパンも買った。後は今日の麻婆豆腐の中辛と餃子の皮を買わなきゃ。へへ、ご褒美としてヨーグルトも買っちゃお」

「あれ?雨宮くん?」


今日の晩御飯が普段よりも欲張りメニューな為、顔を少し綻ばせていれば、背後から最近聞き慣れた声が耳を通る。

だらしない顔を見せてしまったかも、最近よく会うなあ、と二つの思考が心で入り混ざりつつ、祐二は背後へと振り返る。


その人は祐二が想像した通り、学校でもプライベートでもよく会っている金城由美であった。

その姿は祐二と同じ私服姿であり、それには新鮮な可愛さを身言い出してしまう。


「雨宮くんも晩御飯の買い物ですか?……なるほど、自炊タイプですか…」


「自炊タイプって…基本そうでしょ。親と一緒なら親のご飯が食べれるし、一人暮らしなら自分のご飯が食べれる。自炊もできないで一人暮らしするやつはいないだろうしな」


「雨宮くん、言葉の暴力はいけないと思うよ」


「え?それって一体どういう…うわぁ」


突然の意味深な発言に首を傾げてしまったが、由美のカゴの中も見たら分かった。

カップラーメンなどの、簡単に作れるインスタントしか無かったのだ。

祐二は他人の生活にどうこうと言い、踏み込む性格ではない。性格ではないが、流石にこれは言わなければならないだろう。


少々説教くさくなってしまったが、若い頃からカップラーメンを食べていれば後々に響くというもの。

友人が早々に弱ってしまうというのは避けたい。


「ばーかばーか!誰もが雨宮くんみたいに料理ができる訳じゃないんですぅ!料理ができなくても一人暮らしをしたって良いじゃない。料理ができなかったら一人暮らしをしてはいけない、なんて法律ないもん!」


「いや、そうだけど」


祐二は今、迷っていた。この子供っぷり満々の由美に現実を突きつけるか、このまま夢を抱かせて放置するか。

これ以上論争にならない道は、後者であろう。しかし、友人として放っておく事はできない。

由美にちょっと救われた身だから、余計に。


しかし、無理やり料理を押し付けても良くない事は知っていた。

苦々しく事柄に首を突っ込んでも辛いだけだと知っているのだ。

だから、祐二は思考を巡らせた。無理やり押し付けず、好んで事柄に取り組める可能性。それを。


「金城。今日ウチに来いよ。夜を奢ってやる」


「え、雨宮くんに悪いよ。私が加わるだけで食費とか倍になっちゃうし。私はカップラーメンもあるし」


「それじゃあ不安だから来いって言ってんの。カップラーメンとかのインスタントじゃ味わえない味。お前に体感させてやるよ」


「…!」


***


「お、お邪魔しまーす…」


「何そんなに緊張してんの?ここには俺以外住んでないって言ったと思うけど」


初めて来た裕二宅を見て少し振動がかかっている由美にシンプルな疑問を問いかけるが、由美からは「だってぇ」という情けない声しか返ってこない。

裕二が分からないだけで、普通の高校生は震えるような感情を抱くのだろうか。

どんなに考えても分からない状況だ。放っておくとしよう。


椅子の上に座っても緊張で震えている由美に対して視線を寄せつつ、裕二は麻婆豆腐と餃子を作る為の用意をする。

フライパンと小型の鍋を出し、バックからは餃子の皮と麻婆豆腐の中辛を取り出す。

一人分より多い食材を買ってきたのは英断だったろう。


「金城、今腹減ってる?」


「減ってる減ってる!お腹空き過ぎて今体もカップラーメン食べたいぐらい!」


「そっか。さっさと準備するから待っててくれな」


小さい鍋に二人分のひき肉を入れ、ある程度炒めてから麻婆豆腐の中辛を入れる。

赤々しく滾ってきたのを確認すれば、横で切っていた豆腐を投入する。

完璧な赤に大量の豆腐。ようやく麻婆豆腐らしさが高まってきたというものだ。


完成した麻婆豆腐をコトコトと煮込みつつ、餃子の準備に取り掛かる。

キャベツ、生姜、ニラ、豚肉を取り出し、餃子の内部にある餡を作る。

豚のひき肉に野菜や生姜をポイポイポイとして捏ねれば餡のできあがりだ。


それを餃子の皮で包み、焼けば餃子のでき上がりという訳だ。


「よし!おあがりよ!白飯、餃子、麻婆豆腐、漬け物、マカロニサラダだ。漬け物とマカロニサラダは前日に作ったもんだが、まだ美味しく食べれる」


「うわー!すごい!これ一人で作ったの!?」


「ふふん。幼い頃から磨き上げてきた料理スキルの結晶だぞ。思う存分に食って楽しむと良い!」


「いただきまーす!」


餃子、麻婆豆腐、漬け物、ご飯、マカロニサラダ。由美はバランス良く食べていき、どんな食べ物でも美味しそうに顔を綻ばせている。

最近はずっと一人で食べてきたものだから、誰かの笑みを食べ物で見るのは久しぶりになるだろう。


知り合いがよく食べる女の子は可愛いと言っている意味が分かった気がした。


「おいひぃ…!もっと、もっと作って!」


「はいはい。分かりましたから。この美味しさに気づいたら、今度から自分で作る努力をするんだぞ。自分の好きな味を作れたりするからな。好きな味を店で探し回るより、そっちの方が幾分か良いだろ」


「うん、分かった。雨宮くんに作ってもらう。お願いね!」


「はぁ!?…金城が料理を身につけるまで、だからな」

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