第2話 雨の日ときたまJKと相合傘

湿気の真っ最中である六月。当たり前のように降り、気分と体力を削ぐうざったらしい雨に内心で舌打ちをしつつ、裕二は傘を開く。

傘に当たる雨音は好きであるが、現実へと影響する事象は好きではない。

雨の季節を作った神様は悪戯が好きなのかもしれない。


「それで、お困りですか?金城由美サマ?」


「ええ、思いっきりお困りですよ、雨宮くん」


祐二の言葉の先には、傘を忘れ、雨を忌々しく見ていた由実が立っていた。

しっかり者だと認識していた為、傘を忘れた事は少々意外に感じつつも、祐二は傘を差し出す。


「なんのつもり?」


「なんのって言われても。そのままで帰ったら風邪引くだろ。それにだ、女子が雨に当たるのは、な。色々とまずいから。俺は大丈夫だよ、明日とかに返してくれれば」


ミニスカートで宗教を作るイカれ狂人の祐二であっても、その程度の分別はある。むしろ、ミニスカートで宗教を作る祐二だからこそ、女性は大切にしなければならないのだ。

自分が濡れるのも割と嫌であるが、由実が濡れるのは更に嫌。

そんな思考込みでの発言であったが、由実にとっては不服だったらしい。頬を膨らませて見ていた。


その光景、祐二の背中には悪寒が走る。「あ、これアカンやつや」と体が、本能が、訴えかけているのだ。

その本能に従い、逃げようとした瞬間に制服を掴まれる。

その方向にジリジリと視線を寄せれば、ジト目の由実が制服を掴んでいた。

それを愛らしいと言えれば良かったのだろう。裏を感じ、恐怖で震えてしまう。


「ダメだよ、雨宮くん。相合傘をしよう!」


「は?え?何を言っているんだ、アナタハ」


祐二の予感、完全的中である。どう考えても、友人とする事ではない。祐二の乏しい知識でも知っている。


「却下」


「ええ!なんで!私と雨宮くん、どちらかが雨にあたっちゃうなら、両方入って両方当たらない方が良いよ。だから、ね!」


「ね!じゃなくて。それはダメでしょ。学校が終わってからから少し経ったとは言え、生徒がいなくなった訳じゃない。変な噂を立てられるかもしれない。俺と邪推されるなんて、嫌でしょ」


祐二は言い聞かせるように棘のない口調で発するが、由実がその言葉に応じる様子はない。

それどころか、相合傘をする決意が段々と強まっている気がしてならない。いや、確定でそうなっているだろう。

どうしたものか、と思考を巡らせるものの、妙案が浮かび上がってくる事はない。


どこかで行き詰まって、無理だと訴えかけてくる。

祐二はその事実に諦めの吐息を吐きつつ、苦笑いを浮かべる。「しょうがないなー」と言葉を浮かばせ、傘を祐二と由実の上に差す。


それで満面の笑顔に変わる由実を見て笑顔になってしまうのは単純なのだろうか。

あぁ、それが事実だったとしても祐二は笑顔になるだろう。


たった一人の友人が相手なのだから。


「ふふ、雨宮くんは優しいね」


「優しいねって…押し切ったのそっちでしょ。俺は最初、断ろうとしましたけどねー」


「およよ、ごめんなさい。雨宮くんの懐の深さに甘えてしまいましたわ」


「泣き真似がよぉ…」


誰がどう見ても嘘泣きと判断できる程には欠落だらけの泣き真似の呆れを抱いてしまう。

泣き真似をするのなら、もう少しまともな演技を身につけてからして欲しいものである。

その心からジト目を送るも、由美はのらりくらりと受け流す。

なんて事ないように、言葉を次に発する。


ここまでのらりくらりの避け続けられると、こちらも少し楽しくなってくるというもの。

気付かぬ間に顔には微笑みが浮かんでいた。


「笑われている。そんな私の気持ちを100文字以上1000字以内で答えなさい」


「面倒くさいから却下」


「はー!雨宮くんは問題文を拒否するスタイルなんですか。えぇ、えぇ、分かりましたとも」


「クソ問だったり時間の長い問題があったら飛ばすだろ。そういう事だ」


「私がクソ問と同列と言われた気がした」


「おぉ、察しが良いな。正解」


祐二の揶揄いからかいが含まれた言葉に、再度由美は頬を膨らませて不満を表していた。

頬を膨らませる姿はハムスターみたいだ、と世間では言われる。しかし、祐二は思うのだ。墨を含んだタコにも似てないか、と。

いや、似ている。異論は認めようと言われても抗議が飛んでこないぐらいには似ているのだ。


そんなに似ているのだから、頬を突いてみたいという心は間違っていないのだ。けっっっして間違っていないのだ。


「いた、いた!悪かったから!もう頬を突きませんから。だからグーでポコスカ殴るのはやめてくれ!痛い!あと傘がブレる!」


「悪かったと思ってるなら素直に受け入れてよ!」


「濡れるだろうがよ!」


下手な発言をしたのはこちらの方ではあるが、傘の下で殴らなくても良いのではないのだろうか。濡れるのが嫌だから相合傘をしているというのに、殴られては二人とも濡れてしまう。

今時暴力ヒロインなど流行らないというのに、よくやるものだ。


「ふー、このくらいにしておいてあげる。私の慈悲に感謝すると良いよ」


「自分がこれ以上濡れたくないからでしょ」


「何か言った?」


「いえ、何も」


「はぁ、本当に…。私は雨宮くんの優しさに感謝をしているというのに。雨宮くんは違うみたい」


「いやー?俺も感謝してるよ」


「本当ですかぁ?」

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