空を見上げる探偵

@tanekakota

第1話・最終話

空を見上げる探偵


冬のある一室で事件が起きた。そこは小さな部屋であり、その真ん中に遺体はあった。

そこに集められた6名。探偵の八白やしろ、助手の猫島ねこじま、刑事の烏間からすま、被害者の嫁の雛子ひなこ、長男の鱒男ますお、次男の則鷹のりたか


それぞれアリバイはなく、「自室にいた。」と、口を合わせて「自分はやっていない。」と言う。


八白はそれぞれを別室に呼び話を聞くこととした。まず、雛子から。雛子は


「死亡推定時刻は自室で寝ていた。」と。


そのため、アリバイはないと話した。しかし、話している様子は落ち着きがなく、目も合わせずに周りを常に見渡している。八白が


「どうしてそんなに落ち着きがないのか。」と問うと。


「お父さん、お父さん。」と壊れたラジオのように繰り返している。夫を殺されて取り乱しているようだ。


次に長男の鱒男の話を聞くこととした。しかし、鱒男は、父の遺体を見てから口をパクパクさせており、虚ろな目をしている。とても会話ができる状態ではない。


次男の則鷹は、「俺はやってねー。」の一点張りであり、死亡推定時刻には、部屋で1人で食事をしていたと言っており、アリバイはないとのこと。


証言が一通り揃った所で現場の確認をしておこう。


被害者は、自室の真ん中に仰向けで倒れていた。腹部を何かで抉られている様子であった。しかし、犯行現場に道具は見当たらない。何で犯行を行ったか見当もつかない様子であった。状態を見るに正面からの犯行だと八白は推測した。


「猫島くん、君の考えが聞きたい、現場を見て何か思うことはあるか。」


と八白がきくと。猫島は、


「被害者の周りに飛び散った血を見る限り、被害者に相当な恨みがあったのではないかと考えられます。被害者の返り血が、犯人に飛んでいてもおかしくないはずですが、証言を照らし合わせると遺体発見時に、みなが部屋を出たタイミングはほとんど同時です。

被害者はなぜ部屋の真ん中に居たのでしょうか、先生。」

「それはきっと、テレビの横にある暖炉に火を付けに行ったんだと思うよ。」


八白はあるところを疑問に思っていた。部屋に一つしかない扉から出ると廊下があり、その左右に息子たちの部屋がある。犯人がここから出てくれば、どちらかが気づくはずだ。しかし、どちらも部屋から誰かが出てきたところは見ていないと言っている。誰がどのように部屋から出てきたかを突き止めないと答えには繋がらない。さぁどう考える。

 

猫島が


「先生、皆が部屋に来た時には暖炉の火は消えていたそうです。」


と言うが、八白からの返事や反応はなく、目を閉じて胡座をかいている。(これは先生が考えるために頭の中を真っ白にして集中している状態だ)と思い、八白の邪魔にならないように離れるのであった。


容疑者たちは、

「いつまでここに居させるの?」

「部屋に帰りたい。」

「兄貴が遺産目的で殺したんだよ。」

「お前こそ親父にお気に入りの手袋を取られて怒って殺したんじゃないか。」


と一触即発な雰囲気で、そこを烏間が宥めている。


八白は見上げ何かを閃いたように勢いよく立った。


「私には最初から犯人がわかっていました。」



『『『!!!!』』』



一同は驚きを隠せていない様子であった。

最初に口火を切ったのは猫島であった。


「先生、それはどういうことですか。」

「言葉の通りだよ、猫島くん。僕には最初から犯人は分かっていたんだよ。ただ、殺害方法と動機がわからなかった。しかし、君のおかげでやっと分かったよ。」

 「犯人は誰なんだよ。」


と鱒男が問う。


 「これは恨みによる犯行ではなく、本能的な現象で起こってしまった事故なんだよ。」


八白はゆっくりと部屋を歩きながら話し始めた。


「ここからは憶測の話だが、おそらくはこうだ。

被害者は、冷えてきた部屋を暖めようと手袋をはめ、暖炉に薪を入れていた。そこに犯人が部屋に入って来たんだが、犯人は本能的に手袋まで飛んでしまった。その時にたまたま被害者の腹部に傷を付けてしまい、出血させてしまった。それがいけなかった。犯人は血に反応して出血している所を食べてしまった。それが致命傷となり、被害者は亡くなってしまった。」

 「しかし、先生、犯人が部屋から出る所を誰も目撃していません。どうやって抜け出したのでしょうか。」

 「僕も、そこで悩んでいた。どこから出たのか。しかし、君が教えてくれた情報で繋がったよ。」

「それって暖炉の火についてですか。」

「そうだよ、暖炉の火は消えていた。全て灰になって消えていたんだよ。犯人はその暖炉から出たんだ。暖炉から飛び出て、何ごともなかったように部屋に戻った。」


「どうだ。違うか、鷹の則鷹くん?」


と八白が問うと、則鷹は、諦めたように口を開いた。


「そうだよ。僕が殺してしまった。でも殺す気はなかった。ほとんど探偵さんの言う通りだよ。」


八白が最後に疑問を投げた。


「返り血については分からなかった。どうしたんだ。」


則鷹は潔く答えた。


「羽根に付いた返り血は部屋で抜いて来たんだよ。だから、他の人より部屋から少し出るのが遅れた。」


そして則鷹は手錠をかけられ、現場を後にした。



後日談

「先生、最初から犯人が分かっていたって言ってましたけど、あれってどういう意味だったんですか。」

「ああ、あれか。君、考えもみたまえ。ヒヨコの嫁と水槽に入っている鱒の長男と鷹の次男だぞ、一目瞭然じゃないか。」

「それもそうですね、気が回らなかったです。」


落ち着いた様子で猫島は言った。


「僕もまだまだですね。」




                            END

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