4-3 運命の瞬間【side 双子】

sideサイド


「早弥様!」


 ぼくたにさんにご飯を食べさせて頂いているとき。

 突然、扉が開けられて、中に女性が入ってきた。


「どうしたのですか、さん?」

ようそうとうとくたい本部からです。至急、お読みになるように書かれております!」


 狐田さん、という方から渡された封筒には「妖魔掃討特務部隊本部」と達筆な字で書いてあった。開けてみると、中には、一枚の綺麗な手紙が入っている。


「……合否、だよね……」


 と、また部屋の扉が開いて、中にこもくんが入ってきた。


「ご、うひ、ですか……」

「多分……」


 手紙を開くと、そこにはまた達筆な字で、文章がつづられていた。



  受験番号一〇八九番様


  この度はお申込み頂きありがとうございました。


  貴方あなたが受験されました試験につきましては、厳正なる評価の結果、残念ながら当初は不合格と──



 静かに、雷が落ちた。ため息を一つついたとき、真菰くんが僕の肩を、優しく叩く。


「まだ続きがありますよ」


 視線を落とすと、確かにまだまだ、文章がつづられていた。



  当初は不合格と判断されました。しかしながら、りゅうかんほうらい隊長が貴方の能力と今後の成長可能性を高く評価し、試験結果に関わらず、貴方を妖魔掃討特務部隊の一員として迎え入れることを決定いたしました。


  隊長の決定は、本部としても重く受け止め、貴方が今後訓練を受け、実務に臨む準備を整えられることを期待しております。



「えっ……」


 寳來、くん……?

 何度か目を開いて閉じて、まぶたをこすってみたけど、書かれた言葉は変わらなかった。



  今後、配属先および訓練予定の詳細につきましては、改めてご連絡いたしますので、引き続き準備を整えて頂きますようお願い申し上げます。


 貴方の加入を、心より歓迎いたします。そして、貴方の成長を見守りながら、共に戦う日を楽しみにしております。


          桜雅国妖魔掃討特務部隊本部



 下には、円の中に咲き誇る桜の花を描いた、紋らしき模様が入っている。

 封筒をひっくり返すしたとき、一枚の紙が出てきた。

 これまた達筆だった。



  おれのおかげだからね、感謝してよ。



 その文面だけで、誰からの手紙なのかわかった。ふっ、と笑みをこぼした後、全力で叫ぶ。


「ありがとおおおおおおおおお! ……グエッ」


 その瞬間、肩が「ボキッ」と盛大な音を鳴らす。


「肩痛めました!? 何してんですか早弥さん!!」

「悪気はないんだって! ごめん!」



 ✿❀❖*✿❀❖*✿❀❖*



【side れい


「失礼します!」


 部屋に、使用人らしき男性が入ってきて、寝台ベッドの近くのいすに腰かける。

 俺は、枕を抱く力を強めた。


「霊弥様、妖魔掃討特務部隊本部から、お手紙が届いております」

「……起き上がれないんだ。ついでに片目が使えない」

「左様ですか。なら、口頭で」


 声がこもっているのは、仕方ない。

 後ろから、紙の音がした。


「受験番号一一二七番様。この度はお申込み頂きありがとうございました」

「どうも」


 布団の中でため息をつく。疲れた。


「貴方が受験されました試験につきましては、厳正なる評価の結果、残念ながら当初は不合格と判断されました」

「あっ……」


 ろうの短い悲鳴が、静かな部屋に響く。


「しかしながら、五龍神田寳來隊長が貴方の能力と今後の成長可能性を高く評価し、試験結果に関わらず、貴方を妖魔掃討特務部隊の一員として迎え入れることを決定いたしました」


 男性の声が明るくなったように感じたのは気のせいだろうか。

 合格、を意味する言葉が聞こえたのも気のせいだろうか。

 寳來がそうしたと聞こえたのも気のせいだろうか。


 ……気のせいだろうか?


「……以下は、割愛させて頂きます」

「れ、れれれ、霊弥さん! 聞きました!?」


 ゆっくりと首をもたげ、こくりとうなずく。枕に顔を埋めて、先ほどの言葉をはんすうする。


『五龍神田寳來隊長が貴方の能力と今後の成長可能性を高く評価し、試験結果に関わらず、貴方を妖魔掃討特務部隊の一員として迎え入れることを決定いたしました』


 何度も、反芻する。


『貴方を妖魔掃討特務部隊の一員として迎え入れることを決定いたしました』


 ……これは……特別合格、なのか……?

 特例、ということか……?


「おめでとうございます!」

「れ、霊弥さん、おめでとう!」


 一瞬だけ枕から口を離して、ふ、と口角を上げる。


「……ありがとう、ございました」


 と、次の瞬間、隣の部屋から、叫び声が聞こえてきた。


「ありがとおおおおおおおおお! ……グエッ」


 ついでに「ボキッ」という嫌な音まで聞こえてくる。

 この、地味に低音のショタボイスは……。


「肩痛めました!? 何してんですか早弥さん!!」

「悪気はないんだって! ごめん!」


 ……やっぱり、早弥、だよな。

 早弥は、合格したのか……。


 だが、それよりも気がかりなことが。


「あいつ、肩痛めたのか……?」

「興奮で、腕を振り回したのでは……?」


 あいつ、ばかか……?

 自分が大ケガを負っていることを一時でも忘れたら、ああなるが……興奮、しすぎだろ……。


 あんだけ「ボキッ」って盛大に音鳴ったんだからな……。


「さ、早弥さん、大丈夫かな……」


 思えば小学校のとき、徒競走で一位になったのがよほど嬉しかったのか飛び回っていたら、頭から盛大に転んで大惨事、なんてこともあったな……。


「……気にしなくていいだろう。自己責任」

「さ、流石にそれは……」


 いい、いい、と俺は首を横に振る。


「ばかなんですか早弥さんは!? 大人しくしてれば、こんなことにはならなかったのに!!」

「ひぇえ……ごめんなさい……」


 自業自得だろ、と心でツッコミを入れてから、再び眠りについた、俺であった。

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