2-13 対応には困る【side 霊弥】
古風な服を着た
先ほどから
「眞姫瓏?」
ぼんやりしていた眞姫瓏に声をかける。
まさか話しかけられるとは思わなかったのか、眞姫瓏は肩をすくめて、俺を見上げた。
「へっ……は、はいっ、なんでしょう!?」
「さっきからボーッとしてるが、大丈夫か?」
「え、ええ」
取り
何か知っているのか。
「一。眞姫瓏に何かあったか?」
護衛のひとりに問いかけると、彼はため息混じりに答えた。
「すみません。
国政に関わる機密情報だったら、まあ、口外してはならないのも分かるが。
流石にこれ、そんな情報か……?
「お前らでは手を回せないのか?
「え……と、それは
目線で
よくあることだった。
目つきや表情が
これがまた、友を数名減らした。
「……二。何なんだこの格好は」
和装であることは、まだ許す。が、何だ、この和装新郎のような衣装は。
これから試験を受ける格好……というより、
「それも皇子殿下にき……」
「何も知らされていないのか?」
地を
流石にやりすぎたと思い、目の端を下げる。
「わたしたちは試験会場までは同行しますが、中には入れないので」
護衛が
「会場には俺だけで?」
「ええ」
特に心配することはなさそうだが、それよりも……。
眞姫瓏の視線が地面を
「眞姫瓏、何かあったのか?」
「……いえ、大丈夫です。お気遣いなく……」
彼女の言葉が一瞬止まる。
その視線の先にいるのは、後宮の
「霊弥さんは……試験に集中してください。私は平気ですから」
眞姫瓏の微笑みは作り物だったが、それ以上追及するのはやめた。
人の心に勝手に踏み込むのは、互いに不快だと知っている。
すぐそばを歩く護衛を
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試験会場。
天井の高い和室だった。吹き抜けというか、席から外が見える。
庭はいわゆる
周囲に座っているのは、人ではない。人外だ。
人はそれぞれ違うというが、あやかしもまた
中には、人型でさえない者も多い。獣人の中でも、いわば《獣》の割合が多いというべきか。
俺の隣に座っているのは、
頬に刻まれた模様通り、何となく電気を感じた。
青年は、俺の
「お前、妖気をほぼ感じねぇわ。見た感じ、色以外変わったとこもないしな。俺の方が上だな!」
初対面だよな? と一瞥する。そこに
「うわ、怖……」
「雷神様の端くれをこーするとか……」
「
……皇帝って、そういう感じの怖い人なのか?
というかこの青年、雷神の端くれなのか……どうりで、奔雷って感じの見た目なわけだ。
「か、勘弁しろよォ。ち、ちーっとからかっただけ……だよなァ……?」
「からかわれるのは
「ゆ、許してくれ! この通り……」
はぁ?
ただの人間が、雷神の端くれに土下座されるという謎の状況に、あたりがしんと静まり返る。
「別に大して怒ってはいない。謝れるのも好きではない」
「えっと……お、おれ、どーしたらいいんだ……?」
いや、何事もなかったように、普通にすんと、そこで座っていれば何よりなのだが。
冗談で人をからかうのも好き、でも誠実なやつらしい。ややこしいやつだ。
「べ、別にお前さんを侮蔑したわけじゃァ、ないからな!」
「分かってる。それに俺は、そういう言葉には慣れている」
学校で言われ続けた言葉だ。
──『弟に比べて陰気なやつだな』
──『友達を減らすにはぴったりなお人柄で』
──『この前、縁切り神社の札にお前の名を書いたよ! あはは!』
この悪口を聞いてきたためだろうか、もう俺は、自分への悪口に対して、何の感情も湧かなくなった。
さっきのも……彼が単に勘違いしただけ。
まあ、目つきも表情も険しいし、笑いのつぼも浅くないし、趣味自体が少ない上、喋るのが苦手なたちだった。そんな俺が一瞥したら、怒っていると思われるのも、まあ、自然な話である。
つらくはないな。
と、前の方の襖が開いて、いかにも官吏という服を着た男が入ってきた。試験監督だろう。
「全員、準備を整えろ」
場の空気が一瞬で変わる。
「なおこれから、一切の妖力の使用を禁ずる。使用した場合、失格として、試験会場からの退場をうながすぞ」
俺は、自分自身では妖力を
そう言う前。ざわついた会場に響いた声。
「
会場がしんと静まり返る。嵐の前の静けさという言葉が似合うほどの静かさだった。
試験監督がゆっくりと口を開いた。
「これから試験を始める。問題用紙は今から配布する。開始の合図があってから開け」
問題用紙が一斉に配られた。三年少し前に受けた入学試験に
「合図が出るまで、誰も問題用紙を開いてはならない。よろしいか?」
一同が
「開始の合図が出たら、制限時間内に問題に解答しろ。解答は、落ち着いて、焦らずに答えたまえ。なお、制限時間は半刻」
確か、半刻は一時間だったはず。普通の試験の制限時間だ。問題はない。
入学試験のときは、もっと短くて焦った記憶がある。
「机上には
目線を下にする。硯の中には、すでに
「──試験開始」
合図と共に、部屋の中に、紙をめくるいくつもの音が。
はらりとめくりながら構成を確認する。
最初は計算、次に理科……と調子に乗ってめくっていたら、その次は古文、歴史と続く。当たり前だが、全範囲だ。
年号を覚えるのも苦手、古語を覚えるのも苦手。本当に計算問題しかできないのだ。覚えるなんて絶対に無理。
というか、なんでこんなに記述問題があるんだ……俺、記述問題は過去に数回しか満点をとったことがないんだ……。
垂れる墨汁と黒く染まる筆、それから絶望の問題用紙を交互に見ながら、俺は数秒、固まっていた。
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