2-11 入隊試験へれっつごー【side 早弥】
最初に《妖魔》に襲われてから、何日経ったか。
──五月上旬。
鮮やかな色の青葉が、陽光を反射して輝いていた。
朝早くから荷物をまとめて、みんなと一緒に家を出る。
今日は、入学試験、筆記試験の日。
……はい。時系列が飛びすぎなのは分かっています。分かっているんだけど、それは月兎に聞いて。
というか、会場は桜雅京の中って聞いているけれども……
《
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「ねえ、寳來くん」
国道沿いを平然と歩く彼の背中に、声をかける。振り向いた寳來くんは、何? と言うように瞳を濡らした。
「どうやって桜雅京まで行くの、ここから」
「転移するよ」
「へえ。……へ?」
納得しかけて……目を見開く。
「転移? 転移!?」
「うん。ただ、一回、不安定な場所を中継するけど」
何だか不穏なことを言われて、肩をすくめる。不安定な場所を中継って何? ちょっと怖いんだが。
「早弥は、
「よもつ……ひらさか?」
僕が首を傾げると、寳來くんはため息をついた。そして、話し始める。
「日本神話において生者の住む
「あ……知らない」
日本神話なんて、イザナミとイザナギが日本列島をつくったことしか知らないなぁ……。
というか、この世とあの世の間って、三途の川じゃないんだ?
「黄泉比良坂は、まあ、簡単に言うと、イザナギとイザナミが大げんかした場所なんだけど。あやかしたちはそういう、不気味なところを本能的に好むから、そこを経由して行き来するのは楽なんだよ」
怪談を聞いている気分。怖いもの好きならいいけれど、僕は別に好んでいない。
詳しく言わなくてもよかったのに、
「運が悪いと、岩の向こうにいるイザナミに恨まれて、呪い殺されるかもね。あやかしはそういうのに耐性や抗体があるけど、人間は薄い。ひねり殺される可能性あるよ」
「こ、怖い怖い……僕、今からそこに連れてかれるの?」
「そう。だけど、俺がいるから大丈夫だよ。多少なりの邪気なら、この手でつぶせるから」
「黄泉比良坂より怖い」
人外である寳來くんは、よく物騒な言葉を口にする。しかも、冗談などではなく、本気で。
人道的だからよかったけど、もしかしたら、割と平気で殺人とかできるのかも……と、おふざけなしで思うのだ。
「とにかく、安心しな。それに、桜雅京の
「いやいやいやいやいやいや」
人外を基準にして考えられても困る。僕は生身の人間だ。人外に近い能力を、わずかに持っているけれども。
「で、眞姫瓏。霊弥の試験会場まで送っておいて。二人は試験会場が全然違うから」
「了解。真菰くんは陰陽道の試験?」
「うん。準一級だから、終わるの結構遅いと思うよ」
陰陽道の試験……準一級ってことは、かなり高い級の試験だよね……。
真菰くんも、頑張っているんだなぁ……。
「ていうか、入試の難易度……」
「いや、俺に聞かれても困るんだけど」
だよね。寳來くんは入隊試験、受けてないもんね。
後ろを向くと、眞姫瓏ちゃんも、困ったように笑みを浮かべる。
「陰陽道の試験は難しいの?」
「うん。特に陰陽道の中には、慎重に扱わねばならない術式も多いからね。不用意に扱うと神からの祟りを受けることもある。天文学での占いと聞くと安全だけど、意外に危ないんだから」
怖っ……そ、それを真菰くんは、あの小さな身で行うんだよね……。
「あと、専門的な知識と正しい順序が必要。間違えると……」
そう言って寳來くんは手を叩く。要は、終末ってことだ。使い方を間違えると、全てが終わる。もちろん、自分も。
「陰陽道の試験は、その専門的な知識と正しい順序を問う。それに受かれば、ある程度は安全に陰陽道を使える、っていう証明ができるってことよ」
陰陽道の試験の重み、すごいな……。
命に関わるんだから、その試験は難しいに違いない。ゆるくしたら、絶対に質が下がって
「まぁ、妖魔掃討特務部隊のは、そこまで難しくないと思うよ。陰陽道ほど危険なものじゃないし。あ、死ぬ危険はあるけどね」
「さらっと怖いこと言わないで」
結局、命に関わることじゃん──と言いかける。《妖魔》は、どれほどの命を奪ってきたのかと考えると、命懸けなのも納得がいく。
《妖魔》は、国を滅ぼせる。文明を破壊できるんだ。
「ちなみにだけど、最初は単独任務?」
「いや? 俺いるけど。すぐ母上に気に入られて昇格できると思うよ。あ、死亡率が上がるけど」
それだったら死亡率が低いまま昇格しなくていいんだが。
「さあ、この坂を全力で上って。そうしたら黄泉比良坂に着いて、その後、気づいたら桜雅京にいるはず」
目の前に立ちはだかる急坂。
これが……黄泉比良坂に通ずる坂……?
どう見ても、普通の坂……。
「何立ち尽くしてんの? 早く上ってよ」
なんか……うるさ……。
舌打ちしてから、目の前の急坂を駆け上った。坂を上り終えた後、振り返る。
人も車も、何もなかった。
建物が、廃墟のように取り残されている。昼とも夜とも言えない薄暗い空と、不気味な虚無感。
これが、黄泉比良坂?
「どうだい? 初めて見る、見知った町の風景は」
知っている町。見知った町の風景。それなのに、初めて見る。怖い。
「目、つぶって。……三つ数えてそこで待ってて」
つぶろう──と思うより早かった。勝手に目が閉ざされる。
催眠術なのか? と疑う。一、二、三……。
眼前に広がる景色に、目を見張る。
「……!?」
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