2-3 各々が持つ能力【side 早弥】

「っ……」


 歩くのもしんどそうな寳來ほうらいくんを気にかけながら、玄関までやっと到着。

 ここまで五分。


 よほど貧血がひどいのか、胸を押さえている。

 そういえば貧血の症状に、胸の痛みとかどうとかがあったような……。

 こ、これ?


「家入る? 少しなら、僕のベッド貸せるけど……」

「少し〝 なら〟?」

「っ……ち、ちーっとばかり?」


 貧血で弱っても、ほ、寳來くんは上から目線……。

 やっぱえらいひとにべた褒めされて育ったんだから、そっか、そうだよね。傲岸ごうがんそんっぽくなるのも、仕方ない。……いや?


「ふん、ありがとう」


 感謝の仕方がおかしいでしょ、上から目線も大概にしろ。

 なんてね、ぼくが言っても、ちっともさまにならないでしょ? え、だって僕、カッコいい系じゃないよ?


「はぁ……自分偉いです、あなたより上ですって、顔に書いてある」


 寳來くんの笑顔って、親しみやすいというより……。

 どっちかというと、偉そうで、少しブラックな感じだよね。



 ✿❀❖*✿❀❖*✿❀❖*



 寳來くんを二段ベッドの上……に載せるのは無理があったので、れいくんのベッドを借りて、寝かせてあげた。

 許可は取ってる。


「ていうか、なぜ貧血……」


 霊弥くんが呟く。

 うーん、確かに運動後に貧血になるのは変かも。

 あ、もしかして、寳來くんの能力──《けつのうりょく》が関係してる……なんてことは?


「血武能力?」


 エスパーですか霊弥くんは? それとも《幻操能げんそうのうりょく》の一つ? それとも双子の特性?

 ……もういいや。


「うん。血武能力って、血で物を作るでしょ? これ、確実に貧血になるよね?」


 式神作りに、微量でも血を使っていたら──。

 あの数を作り出すのに使う血の量は、相当なはず。


「有り得るな」


 寳來くんが倒れるなんて望んでいないし、彼に無理をしすぎたくない。

 ……そう思ってる……んだ、僕?

 とにかく、彼に負荷をかけすぎるのは絶対に良くない。


「……それじゃあ、訓練はどうするの」


 会話の内容が聞こえていたのか、寳來くんが呟いた。

 確かに。どうしよ。


「ところで、眞姫まきろうちゃんとこもくんは、式神を作れるの?」


 お久しぶりの登場。


「あ、えっ、えーっと……」

「おれ〝 は〟作れます。おれ〝 は〟」


 わざわざ「は」を強調するってことは、もしかして……。


「眞姫瓏ちゃんは、作れないの?」


 さっき、はぐらかす感じというか、まどろっこしい感じだったけど……。

 何より、あの毒舌っ子の真菰くんが、わざわざ「は」を強調している。


「……はい。私は、人型の式神を作れなくって……」


 人型の式神って……け、結構高位な式神では?


「それを作れないのに、何か問題が……?」

「ま、まあ、色々事情があって」


 はぐらかすように言ったけど……どうしたんだろ、気になるな。

 そういえば、寳來くんの傲岸不遜っぷりと比べて、眞姫瓏ちゃんは謙虚で、自信が無さげに映る。


 何か……あったのかな。それこそ、性格が形成される、幼少期に。

 けれども、まだ出会って数日程度の僕が、不用意に聞いてはいけないことのように思える。

 しばらくは、様子見しているが吉かもしれない。


「……でさ、みんなはどこに住んでるの?」


 ここ数日、一緒にいるけど……どこに帰っているんだろう……?


「……ここ数週間、泊まってる。宿に」

「え、そうだったの!? 言ってくれればよかったのに……」

「いや、言う必要ある? あったとしても、言う必要無いでしょ」


 ……し、辛辣しんらつ。でもまあ、真菰くんはこういう子だ。うん。


「そ、そっか……。でも、宿って……お金は?」


 あ、これ聞いちゃいけないやつだったかな。


「経費」

「経費?」


 ……えじゃあ、観光じゃなくて、勤労!?


「皇子だろうが何だろうが、俺は妖魔掃討特務部隊隊長。この辺で、妖魔の出没と謎の妖力を検知したので、俺と、幹部の二人が派遣された、って感じ。……眞姫瓏に関しては、無実の追放に近かったけど」


 え、最後の何? 無実の追放? 果てな?

 眞姫瓏ちゃんが……追放されるほどのことを、したの?

 とても、そんな子には見えないけど……。


 僕が静かに視線を送ると、眞姫瓏ちゃんは悲しげに俯いた。

 元気、ないのかな……。


「で、残金……? は……」

「宿泊費と食費込みで、残金五万円に対して、計算上は六万四十二円」


 ダメじゃん。一万円以上オーバーしてる。これじゃ、宿泊費か食費、どっちかを削る必要がありそう。それで一万円削れるのかは知らないけど。

 とにかく、ダメじゃん。


「宿代が合わせて二万しないくらい。野宿ならタダ」

「でも、国道沿いですよ? 野宿できるわけないじゃないですか」


 まあね。ここ、百二十七号線がそこだから。夜中はバイクがうるさいよ。

 確かに野宿できない。警察に色々言われそう。


「ちょっと、別に泊まりたいわけじゃないんですけど……あなたと一緒にいるのも悪くないかなって、思ってるだけですからね!」


 顔を真っ赤にして、真菰くんが言う。

 ……え? 真菰くん?


「え? えっと、それは『泊まりたい』ってこと?」

「……変なこと考えないでくださいね。早弥さんが思ってるのと、おれが思ってるのは、べ、別物ですから!」


 そう言いながら、真菰くんは、ぷいっと顔を背けてしまった。

 何だろ……可愛い。

 不覚にもそう思ってしまったけど、真菰くんに辛辣しんらつな言い返しをされるのはめんだったから、口にはしなかった。


「ちょっと待ってね。お父さんに、泊めてもいいか聞いてくる」


 そう言って僕は部屋を出て、階下に行った。


 ちなみに我が家の働き手はお母さん。地方ローカルで活躍中の女優だ。それで家にはあまり居ない。

 リビングにはやっぱり、お父さんが居た。

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