2-2 いざ、実戦……。【side 早弥】

「明日また来るから、連絡先だけ交換しておこうか」


 と言われたので、ぼく寳來ほうらいくんたちと連絡先を交換した。

 うう……寳來くんのスマホ、最新式の一流スマホだった……。あれずっと欲しいんだよなぁ!

 いいや! 中古になったら買おう!


 まあ、その後はそんなかんやで時間が進み、気付けば寝る時間になり。

 爆睡。すぴー。



 ✿❀❖*✿❀❖*✿❀❖*



 翌日の帰り。時刻が飛びすぎてすみませぬ。

 れいくんと共に家に帰ってくると、やーっぱり寳來くんたちがいた。今日は家の前だったけど。


「ん。やほ」

「やほ寳來くん」


 ていうか、昨日「実戦」とか言ってたけど……自由に能力を操れないのに、どうやって実戦……?

 僕が首を傾げているのを見たのか、寳來くんが一瞬だけ目を見開く。


「実戦って言っても、相手は俺の雑魚ざこ式神しきがみだけど……」


 ……え? 式神?

 それ、陰陽師関連のメディアでしか見たことがないんだけど……え、寳來くんって陰陽師じゃないよね?

 っていうか雑魚式神って……それ、で雑魚だよね?


 それもやってみないと分からないのかな。


「な、何の式神?」


 色々と誤魔化そうと、思ってもいない問いかけをする。

 寳來くんは一言も言わずに手のひらを向ける。とそこから、何かが放たれた。

 光の粉だったそれは、風に吹かれながら形を作り──。


 小さな雷を帯びた、半透明の鳥になった。


「これは……」

「ら、雷鳥かな?」

「当たり、雷鳥。攻撃力も大して強くないし、弓矢や刀なら一撃で倒せる。ただ攻撃を連続で受けたら、結構くるよ」


 さらっと怖いことを言わないでください……!?

 というか武器は!? 武器はどうするの!?


「まさか素手っ……」

「なわけないでしょ。家から取ってきたら?」


 ……家から取ってきたら?

 え、ということは……。

 小鳥遊たかなし家に竹刀も弓もあるの、昨日のうちに把握済みだなああああああ!!?


 ということで取って参った。

 にしても、寳來くんの記憶力、恐るべし……。


 ふぅ……と一息おいてから、肩幅ほど足を開く。

 弓は左膝の上に置き、右手は右腰に。

 その右手は弓の弦にかけて、左手を整え、雷鳥をにらむ。

 その位置から、両拳を同じ高さに、静かに持ち上げる。

 矢を引いて、あとは──射るだけ。


 重みを帯びた空気に耐えられるように、もう一遍いっぺん、深呼吸。

 雷鳥の腹部と矢先を合わせて、右手を離した。


 矢は、雷鳥の腹部をすり抜けて、地面にコトンと落ちた。

 ……え?


「ちょ……え……?」

「あ、ごめん、言い忘れてた。雷属性の敵を倒すには《雷封じの術》をとくする必要があったわ」

「「先に言ええええええええ!!!」」


 霊弥くんと同時にツッコむ。

 もうっ、なんでそんなに大切なことを最初に言わないのっ!?

 うっかりでも忘れちゃアカン話でしょ!


 ったく、それさえ除けば、完全無欠の美丈夫様だったのにね(笑)。



 ✿❀❖*✿❀❖*✿❀❖*



 その後も数日、寳來くんたちは小鳥遊家の前に通い続けた。

 そこで、雑魚式神と対峙しつつ、妖力を学ぶシステム。

 それこそ《雷封じの術》みたいな感じだ。寳來くんいわく、人間でも、訓練すれば妖力を持てるとのこと。


らいりょく手封しゅふう! 雷鳴らいめいりゅう! 静風包雷せいふうほうらい!」


 術を込めながら矢を放てば、羽ばたく雷鳥は射抜かれて、光の粉となって消える。


「次! 戦場に休憩はないよ!」


 最初こそは悠々ゆうゆうとしていた寳來くんも、段々本気度が増している。

 目付きも、少しばかり険しくなっていた。

 それにつれて式神も強くなった感じがする……。


おにに使う封印術は!?」


 寳來くんの叫ぶような問いかけに、必死で答える。


「っ……や、《闇封印の術》!」


 弓を脇に挟んで、とっさに手を構える。


闇影退散あんえいたいさん! りょう封印ふういん! じゃしょうめつ!」


 固まって構える小鬼の様子を窺いながら、弓矢に念を込めた。

 矢を、小鬼の集団の、真ん中ら辺に向ける。


しゅうげき!」


 小鬼が一斉に襲いかかる瞬間、僕は矢を離した。

 地面に突き刺さった矢から放たれた光が、小鬼の式神を消し去る。


「ハァ……ハァ……」


 肩で息をしながら、彼に向き直る。

 彼もまたしかりだった。当たり前と言ったら当たり前、何戦連続で式神を操っていたことか。


「……」


 しばし目線を合わせた後、立ち上がった。


「……お疲れ様。流石の俺も、限界かな」


 そう言って、寳來くんは立ち上がったけど──すぐ、よろめいてしまった。


「寳來……!」

「だっ、大丈夫、寳來くん!?」

「大丈夫、軽い貧血……」


 貧血って、大の大人でもきついでしょ!


 こうなったら、と僕は持ってきた大きめのタオルを地面に敷いてから、そこにうつ伏せにさせた。


「ちょっ……」

「せめて背中だけでも、と思って」

「……ありがとう」


 ……あ、今、初めてお礼言われた。ちょっと嬉しい。

 にしても……。


「……っ」

「え? どうしたの?」

「いや、その……俺が倒れたら困るから、早弥が支えててくれると、助かるなぁって」


 そう言う寳來くんの顔は、さっきまでの自信に満ちあふれた感じじゃなくて、何というか、弱かった。

 わずかな覇気はきを除いて、本当に弱い。


 こうして見ても、寳來くんって本当に綺麗なんだな……。

 女性だったら、傾国けいこくになっても、おかしくないくらい……。


 って、何を考えているの僕は!?


「何してるの」


 寳來くんに言われて、現実に引き戻される。

 魔だよ、魔。この顔を見て魅入らない人って、逆にいるの?


「あ、い、いや……」

「俺の顔見てたと思うんだけど」


 寳來くんは、自分の唇の左下にある、小さな黒あざを指差しながら言った。


「綺麗でしょ? 顔」


 自分で言う? それ。

 普通、自分の顔が綺麗なんて、言わないよ。確かに寳來くんの顔が綺麗なのは、紛れもない事実なんだけど……。


「ま……ぁね」

「昔から親に言われてたから。『顔と、妖力と、能力と、権力は、あんたが一番だよ』って」


 ……あれ、寳來くんの親って、皇帝陛下だよね?

 ってことは、すごーく端的に言うと、彼の長所は、皇帝陛下にも気に入られていたってわけ……だよね?

 ……いや、本当に傾国じゃん……。


「そ……そっかあ、すごいねえ」

「え、何そのリアクションの薄さ」

「もうあきれてんだよね」


 自分に自信があるのはいいことだけど、ありすぎると悪いって、知ってる? 寳來くん。

 いや、流石に知っているか。にしても、親バカ家庭に生まれたねぇ。


「ふうん。……それより、結構しんどい」


 それ、ヤバくない……? 地面に寝転ってやるだけじゃ、ちょっとアカンくない……!?

 首、正しくは頸動けいどうみゃくに手を伸ばす。

 ……どーこー? って思うってことは、ヤバい証。それより首ほっそ。


「どうする? ここじゃ迷惑になるかもだし……」


 皆さん、ここがどこか分かりますか。

 そうです、小鳥遊家の真ん前です。

 庭はありますが、つまり屋外で、寳來くんは地面に寝転がっています。


 これ……中に入った方がいいよね?

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