第3話 会話
燦々と晴れた土曜日。学校は休み。きっとあの子の学校もおやすみなのだろう。
だから、いつものように庭の花に水をやっているのかなと空想する。
──会いに行っていいかな……?
──ううん。
──会いにいこう。
高鳴る心音を胸に抱いて、あの子の家へ向かう。
その途中──。
「こんにちは」
「ひゃぁ!?」
僕の後ろには、あの子がいた。正直、僕は驚いた。
「あ……。驚かせちゃった? ゴメン」
申し訳なさそうにするので僕は首を横に振った。
「大丈夫だよ。嬉しいから。その、会えたこと」
「そっか、でも今日は逃げないの?」
「え…………」
──まさか逃げたこと気にしてた?
──もうダメかな……?
「ねえ」
何を言われるのだろうかと不安になってしまう。
「よかったら、ウチに来る?」
その意外な言葉に僕は小さく「え……」と零すしかなかった。
それからも。
「えっと……その……」
急に恥ずかしくなって、言葉が思うように出ない。
そんな時。
「じゃあ、来て?」
「う……うん!」
こうして僕は、あの子の家に行くことになったのだ。
・・・・・
あの子の家は庭のみならず室内も綺麗に凝っていたりして、僕の家が平凡だと思えるほどだった。
「お父さんもお母さんも留守だから気にしないでね」
「あ、うん」
「どうぞ」
そう言ってあの子は、温かい紅茶を出す。クッキーもあって、ちょっとしたお茶会みたいだ。
「い、いただきます……!」
僕はそっと紅茶に口をつけた。美味しい、のだけど……。
あの子は微笑みを絶やさずもジッとこちらを見ていた。
「ええと……?」
「畏まらなくていいよと言うタイミングを見計らってたの」
ああ、なるほど。と腑に落ちた僕と大人っぽい面もあるのかなと思った僕がいた。
・・・・・
それから他愛のないような会話をした。
お互いの好きなこと──趣味や好きな食べ物、こだわってることとか色々と──を話をした。
僕はアニメやゲームが好きなのに対して、あの子はやっぱり花の世話が好きみたいで、女の子かなと思ってしまった。そう思うと女の子と二人きりなんて恥ずかしいし学校の友達にバレたらからかわれるに違いない。
でも僕の友達の間で流行ってるゲームも知ってるから断言できない。そして今更、目の前の人の性別を聞くのも失礼だということくらい子供でもわかる。名前も知らないし。
時計が五時を指す頃にお茶会はお開きになった。五時なんて僕たち子供には遅い時間だ。
・・・・・
「また、来てね」
庭からキミはそう言うけど、キミのことを知るとキミとの関係を壊してしまうのかもしれない。
だから僕は、ほろ苦い笑い混じりに──。
「行けたらね」
それ以来、僕はあの綺麗なお庭のお家に近寄らなくなった。
それが正しかったのかは最早わからない。
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